東京15区で注目を浴びた選挙「妨害」 果たして、公職選挙法改正で取り締まるべきなのか(2024年5月6日)

東京15区で注目を浴びた選挙「妨害」 果たして、公職選挙法改正で取り締まるべきなのか(2024年5月6日)

 

選挙“妨害”を断定できない難しさ

 こうした根本候補の突撃によって、まともな選挙活動ができないと判断した候補者たちは、通常はあらかじめ時間と場所を告知していた街頭演説の予定を非公表とする対策を取る。こうして東京15区は、候補者のHPやSNSを見ても街頭演説の予定が告知されないという、ステルス選挙になった。

 選挙は民主主義を支える根幹であり、それを妨害する行為は現代社会において許されない。しかし、法的に根本候補およびつばさの党の突撃を制止することはできず、最終的に警告にとどまっている。

 こうした事態を受け、4月22日の国会審議では岸田文雄首相が一般論と断りながらも、「選挙演説を大音量で妨害するなどの行為には対策が必要」と述べ、翌4月23日には松本剛明総務大臣が定例会見で処罰の可能性について言及。そのほか、各政党の幹部からも公職選挙法を改正するような趣旨の発言が相次いだ。

 筆者の経験に照らしてみると、これまでの選挙でも他陣営を“妨害”する行為は大なり小なりあった。妨害と表現しているが、各陣営は巧妙に公職選挙法スレスレで、それを選挙“妨害”と簡単に断定できない。

 例えば、2019年の参議院議員選挙では安倍晋三元首相の応援演説に対して2人のギャラリーが野次を飛ばし、周囲で警戒していた警察官に排除された。この件は訴訟にもなり、「野次は“表現の自由”の範囲内」と判決が下されている。

 こうした野次と、拡声器を使った大音量による突撃を同列に論じることはできない。どこまでが大音量の範囲になるのかは個々の感性によるところが大きく、簡単に線引きはできないからだ。

 また、街頭演説において大音量での応援は許されている。それに対して大音量での批判はNGとなると、応援と批判の線引きもしなければならなくなる。

 ほかの候補者が街頭演説をしている横で、街頭演説をする行為そのものが選挙戦の邪魔をしているという解釈もできるが、それだと延々と同じ場所で街頭演説をする候補者も出てきてしまう。実際、街頭演説開始の5~6時間前から場所取りをしている陣営もある。こうなると、スタッフを多く抱える陣営が有利になる。

 また、街頭演説の場所がバッティングしてしまうこともある。今回の東京15区補選でも最終日となる4月27日の豊洲駅界隈は多くの陣営が街頭演説をするために、各陣営のスタッフが場所取りに奔走していた。

 日本維新の会は最終日に共同代表の吉村洋文大阪府知事を応援弁士として投入。しかし、その演説中に日本保守党の選挙カーが現れ、代表を務める百田尚樹さんが大音量でスピーチを始めた。先に演説をしていた日本維新の会のスタッフは、こうした日本保守党の行為に対して抗議。日本維新の会側から見れば日本保守党の行為は選挙演説を妨害していると映るだろう。

 逆に日本保守党の立場から見れば、「いつまでも演説をしていないで、早く場所を譲ってほしい。ダラダラと演説するのは、日本保守党に演説をさせないための妨害だ」という思いを抱くだろう。こうした両党の思惑がぶつかり合って現場では小競り合いが起きた。選挙で、そうした陣営間の小競り合いは珍しくない。

 日本維新の会と日本保守党の小競り合いが起きる1時間前には、同じ場所で乙武洋匡候補が街頭演説をし、小池百合子東京都知事が応援弁士としてマイクを握っている。

 今回の補選で多発した“突撃”とは無関係に、そもそも東京都知事には身辺を警護するSPが張り付く。しかし、今回は“突撃”に備えて大量の警察官とSPが投入され、周囲の道路も封鎖された。また、警察犬まで投入して道路脇の植栽などに爆発物などの危険物が仕込まれていないかをチェックしていた。

 言うまでもなく2022年の参院選安倍晋三元首相が街頭演説中に凶弾に倒れた後、街頭演説の警戒は厳重になっている。しかし、同年の参院選最終日に銀座で小池都知事がファーストの会から擁立した候補者の応援演説に立っているが、このときでさえ、そこまで厳重な警戒はされなかった。今回の東京15区は、明らかに異様な選挙戦になっていた。

 ちなみに、大阪府知事東京都知事と同様に警護対象になる要職だが、警察が吉村府知事を警護することはなく、同じ日に豊洲で実施された街頭演説では日本維新の会が独自に警護スタッフを立たせて身辺の警戒にあたっていた。

公職選挙法改正を候補者が訴えることへの違和感

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