宝塚のパワハラ 再発防止を確実に進めよ(2024年4月3日『信濃毎日新聞』-「社説」

 興行や経営への打撃を避けんがための幕引きでないことを、宝塚歌劇団側は行動で示していく必要がある。

 所属俳優が昨年9月に急死した問題で、上級生らによるパワーハラスメントがあったことを認め、謝罪した。再発防止に全力を尽くすこと、相応の解決金を支払うことで遺族側と合意した。

 女性は、自宅マンション敷地内で死亡しているのが見つかった。遺族側は上級生のパワハラを主張。歌劇団側は11月に公表した調査報告書で、長時間の労働などによる重い心理的負荷は認めたが、いじめやハラスメントは「確認できなかった」としていた。

 一転しての今回の合意は、遺族側が証拠を示し、提訴も辞さない構えで交渉してきた結果である。当初、不完全な報告書で済まそうとした歌劇団側は不誠実のそしりを免れない。

 合意の背景には、スポンサー企業との契約更新や公演が迫る歌劇団側の事情もあるとされる。

 旧ジャニーズ事務所の性加害問題など芸能界のハラスメントに厳しい目が向けられている。これ以上のブランドイメージの悪化は避けたいとの思惑があった、という見方である。

 歌劇団側は、現場に物心両面でストレスをかけていた過密な興行や稽古の見直し、ケア体制の強化、劇団専用の相談窓口開設といった再発防止策を示した。

 しかし、人格否定のような罵声を浴びせるなど14件のハラスメントを認める一方、問題に至った背景や言動の解釈には遺族側と相違があるとした。それで再発防止が期待できるか心許ない。

 フリーランス扱いなのに実際には強い拘束を受ける俳優の雇用形態のあり方など積み残された課題もある。新たに設ける外部有識者らの諮問委員会などを通じ、常に第三者の目を入れながらの改革の実行、検証が欠かせない。

 歌劇団側は、今回のハラスメントは、経営陣の「無理解や無配慮」により、長年、現場に負担を強いる運営を続けてきたことが引き起こした―と総括した。

 1990年代後半から公演を増やして負担が重くなっていたのに現場の声に耳を傾けてこなかったとし、「現場任せ」の運営になっていたことを「痛切に反省」するとも述べている。

 硬直した上下関係や労働慣行を美風としてきた経営責任は重い。現場一人一人の人権と創造性を尊重できる組織の抜本的な再建から始めなければならない。