末冨芳日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員
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6000人調査から見えるのは「絶望の連鎖」に陥っている深刻なこども若者の事態(写真:アフロ)
 
こどもの日だからこそ、こども若者の貧困が深刻化していることを知ってもらわなくてはなりません。「こども家庭庁は少子化対策庁になり果てて、こども若者の貧困は置き去りか」超党派の子どもの貧困対策推進議員連盟の国会議員のみなさんも憂慮している状況があります。
1.岸田政権・こども家庭庁は、こども若者の貧困対策を切り捨てた?
こども基本法施行・こども家庭庁発足から1年、岸田政権は「全てのこども若者」を対象とした18歳までの所得制限のない児童手当を目玉政策とする「こども未来戦略」を今年度から実施します。
そのいっぽうで、こども若者の貧困問題は切り捨てられたと言っても良い状況があります。
こども家庭庁の”上から目線”は続いてしまい、こどもの貧困対策は、昨年末に閣議決定されたこども大綱でも、大きく後退しました。
 
今年秋から開始される児童手当の18歳延長は確かに貧困世帯のこども若者にも恩恵があります。
しかし、先進国最悪のひとり親貧困改善のための児童扶養手当の拡充は第3子に対してのみとなっており、ほとんどの世帯が該当しないため、こども家庭庁の予算は前年度比わずか7億円と実質的に横ばいとなっています。
確かに国の子どもの相対的貧困率は2021年に11.5%(2018年の14.0%)から改善しています。
しかし、「子どもの貧困率の改善は労働市場や働き方変化に伴う稼働所得の上昇が主因であり、社会保障等の充実によるものではない。またひとり親世帯については、最貧困層が増加してしまっている」ことが三菱UFJリサーチコンサルティングの分析によっても明らかになっています。
 
また少子化の要因ともなっている若者の貧困(低賃金・非正規化)とそれによる非婚化対策にも、実効性ある政策が欠けていることは、Yahoo!エキスパートの荒川和久さんも指摘されている通りです。
 
2.6000人調査が示す、こども若者への「絶望の連鎖」
 ―深刻化する最貧困層の実態
2021年のデータからは、一見、こども若者の貧困は改善されたように見えても、ひとり親を中心に最貧困層は増加している。
2021年以降、長期化したコロナ禍と深刻化する物価高の中で、日本のこども若者の貧困は、再び悪化してしまっているのではないか。
これらを詳細に明らかにするために、私が理事をつとめる公益財団法人あすのばは、生活保護・住民税非課税世帯の約6000人の親子(子ども・若者1,862票・保護者4,012人/計5,874票)に対し、アンケート調査を行いました。
あすのば子ども・若者委員、研究者、支援団体や三菱UFJリサーチ&コンサルティングのご協力による分析を実施し、中間まとめが公開されています。
調査にご協力いただいた当事者のみなさま、分析にご参加いただいたすべてのみなさまに感謝と敬意を表します。
 
結果は予想以上に深刻なものでした。その要点は以下の通りです。
【保護者調査】
・いつから困窮か、について物価高が進行した「1~3年前」が29.8%、コロナ禍開始前後の「4~5年前」が23.2%と、物価高・コロナ禍困窮が回答者の過半数
・回答者の79.1%が働いており、配偶者・パートナーがいる場合75.0%が働いている。にも関わらず世帯年収平均は178.0万円、貯蓄平均額は36.7万円
【子ども・若者調査】
・小中高校生、大学専門学校生の8割以上が「お金がなく諦めた経験」
・「毎日の朝食」を食べていない小学生は36.7%、中学生は49.5%
・夏休み・冬休み中に「毎日の昼食」を食べていない小学生は21.8%、45.3%
・入浴頻度が「週 4 日以下」の子どもが小学生は 13.8%、中学生は 12.1%
・部活動に参加していない比率は41.6%、最多の理由は「費用がかかるから」
・高校生の31.6%が「家にお金がないから」「働く必要があるから」という理由で進路を狭められている状況
衣食住に事欠く状態を「絶対的貧困」といいます。
こども若者たちが食事もできずお腹を空かせ、お風呂にも入れない。
日本は先進国とされているにも関わらず、今もなおこども若者の「絶対的貧困」すら解消できていないのです。
そんな中で、親も子も「お金がなくて諦める」ことばかり。
希望など持てるはずもなく、絶望しきっている「絶望の連鎖」を断ち切ることができない厳しい状況に私たちはあらためて直面したのです。
親が頑張って働いても劣悪な就労環境のために貧困。
また働けない親は病気、過酷な労働などの中で、働きたくても働けない状況。
行政も桐生市事件のような心ない地方公務員が少なくない結果、行政を信じられず、相談に行っても相談窓口も機能せず、貧困状況から抜け出せない。
貧困はこども若者や親の自己責任ではないのです。
3.いい加減、お腹をすかせたこども若者をゼロに!
 ー子どもの貧困対策推進法からこどもの貧困解消法へ、法改正を!
衣食住にも事欠くこども若者がいるのに、こども若者の貧困対策への予算は横ばい。
「いい加減、お腹をすかせたこども若者をゼロにしてください」、6000人調査の国会内報告会で私も列席くださった国会議員に訴えました。
「こども家庭庁は少子化対策庁になり果てたのか、こども若者の貧困はどうでもいいと考えているのか」超党派子どもの貧困対策推進議員連盟も憂慮する状況があります。
私がこどもの権利の国内法であるこども基本法成立を応援し、こども家庭庁成立も応援したのは、最も深刻な権利侵害状況に置かれた、こども若者の貧困を真っ先に改善する国になると信じたからです。
その期待は、岸田政権とこども家庭庁によって裏切られています。
しかし、私たちは諦めません。
子どもの貧困対策推進議員連盟は子どもの貧困対策団体からの要望を受けて、子どもの貧困対策推進法の改正に着手しました。
 
もっとも大きな改正のポイントは法の目的を「こどもの貧困の解消」とし、こどもの貧困解消法という法名称としていくことに置かれています。
若者の貧困についても、条文を作り、解消を図ることも目指しています。
若者の貧困が解消されると、少子化対策としても大きな効果をあげるのですから、与野党をあげて取り組みを進めなくてはなりません。
こども基本法ができた国だからこそ、こども若者の貧困を真っ先に解消する、お腹を空かせたこども若者がいない、どんな境遇に生まれても希望を持ち前向きに生きられる日本へ。
全てのこども若者が幸せな日本となるために、どうか読者のみなさんも、貧困のこども若者に少しでも良いので思いを寄せてくださると嬉しく存じます。
 
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末冨芳
日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員
末冨 芳(すえとみ かおり)、専門は教育行政学、教育財政学。子どもの貧困対策は「すべての子ども・若者のウェルビーイング(幸せ)」がゴール、という理論的立場のもと、2014年より内閣府・子どもの貧困対策に有識者として参画。教育費問題を研究。家計教育費負担に依存しつづけ成熟期を通り過ぎた日本の教育政策を、格差・貧困の改善という視点から分析し共に改善するというアクティビスト型の研究活動も展開。多様な教育機会や教育のイノベーション、学校内居場所カフェも研究対象とする。主著に『教育費の政治経済学』(勁草書房)、『子どもの貧困対策と教育支援』(明石書店,編著)など。
末冨芳の書籍紹介
 
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子育て罰〜「親子に冷たい日本」を変えるには〜
著者:末冨 芳・桜井啓太
親子に「子育て罰」を課す日本は変わるか?