UNRWA勧告 具体的な行動で信頼回復せよ(2024年5月5日『読売新聞』-「社説」)

 紛争地における国連機関の活動は、対立する当事者双方と距離を保つことが前提のはずだ。中立性への疑念を 払拭ふっしょく するには、具体的な行動で信頼を回復するしかない。
 国連の独立調査団が、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)に対して、職員の管理や運営面での問題点を指摘し、50項目の改善策を勧告した。
 報告書では、UNRWA職員が政治的な意見を表明したり、学校で反ユダヤ的な記述のある教科書を使用したりしていたとして、早急な改善を勧告した。
 そうした行動が一部職員によるものだったとしても、中立性を損なったことは重大だ。UNRWAは、調査団の指摘を 真摯しんし に受け止める必要がある。
 UNRWAを巡っては、職員12人が昨年10月のイスラエルに対するイスラム主義組織ハマスの奇襲攻撃に加担した、とイスラエルが主張していた。これを受け独立調査団が2月に設置された。
 この疑惑については、国連の内部機関が調査を続けている。
 UNRWAは、パレスチナ自治区ガザのほか、ヨルダン、レバノンなどにいるパレスチナ難民約590万人に対し、医療サービスや学校運営、物資配給などの支援を行っている。
 人道危機が深まる中、UNRWAの役割は重みを増している。
 そうした実務に携わっている職員の大半は難民だ。歴史的にイスラエルへの反感を抱いていても不思議はないが、国連の機関である以上、個人的な感情を優先させてはなるまい。
 UNRWAの上層部は、職員が紛争当事者の一方に加担しないよう細心の注意を払うべきだ。採用時の経歴確認は無論、任務に就いた後も、テロ組織と接点がないかを常にチェックせねばならない。研修の充実も不可欠だ。
 ハマスの奇襲攻撃に職員が関与したとの疑惑を受け、日米や欧州連合(EU)諸国はUNRWAへの資金拠出を一時停止した。
 その後、UNRWAが職員の管理能力の向上や、難民支援事業に関わる資金の適切な管理を約束したため、日本と欧州の一部は資金拠出を再開している。ただ、最大の拠出国である米国は、資金提供の再開に否定的だ。
 UNRWAの活動が停滞したら、支援に頼っている難民は窮地に陥ろう。ガザでは餓死者が増える恐れもある。そうした事態を防ぐには、まずはUNRWAが自らを律する必要がある。