政府の火山本部始動 防災に資する体制強化を(2024年4月21日『毎日新聞』-「社説」)

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1707年に噴火した富士山の宝永火口。富士山は、その後は噴火していない=2019年9月14日、永山悦子撮影
 
 日本は、世界有数の火山国である。研究・観測の体制を充実させ、防災に生かすことが重要だ。
 政府は今月、「火山調査研究推進本部(火山本部)」を新設した。文部科学相が本部長を務め、火山や防災の専門家と、気象庁内閣府など関係省庁で構成される。
 調査や観測の計画策定、研究予算の配分などを一元的に担う司令塔だ。長期的な噴火のリスクも評価する。
 
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過去に噴火を繰り返してきた有珠山。周辺には、2000年の噴火によって寸断された道路の現場が残されていた=北海道洞爺湖町で2023年6月5日、永山悦子撮影
 
 世界の活火山は約1500を数え、日本には1割近い111が集まる。
 近年も、1990~95年に噴火した雲仙・普賢岳をはじめ、2014年の御嶽山、18年の草津白根山など、住民や登山者らが死傷するケースが相次いでいる。
 しかし、これまでは気象庁、大学、研究機関などが、それぞれの予算を使って個別に研究・観測を実施してきた。
 データは、気象庁長官の私的諮問機関である「火山噴火予知連絡会」が分析していたが、政策には十分生かされてこなかった。
 地震については、95年の阪神大震災後に設置された地震本部が、観測網の整備を進め、想定される地震の規模や発生確率の研究を後押ししてきた。今回の組織は、それをモデルにしたものだ。
 そもそも、火山研究を巡る課題は多い。
 噴火の様態は、火山によってさまざまだ。多様な活動を正確に把握し、見通しを分析するには、きめ細かなデータの取得が必要だ。
 にもかかわらず、観測網は十分とはいえない。
 気象庁が常時監視の対象とする活火山は50で、全体の半数に満たない。十分な予算が確保されず、大学などの施設や体制の維持が厳しい状況にある。
 専門家の少なさも深刻だ。大学の火山学者などは「40人学級」と揶揄(やゆ)されるほどの人材難だった。御嶽山噴火後の育成プロジェクトなどで増えたとはいえ、今も100人程度にとどまる。
 専門人材の育成を急がねばならない。若手が能力を発揮できるポストの確保も必要である。
 火山は、温泉や美しい景観など恵みももたらしてくれる。新たな組織の発足を、火山と共生しながら防災力を高める契機にしたい。