天皇陛下即位5年 地方訪問を本格再開、被災地に心寄せ(2024年5月1日『日本経済新聞』)

避難生活を送る体育館を訪問し、被災した人たちに声をかける天皇、皇后両陛下(3月、石川県珠洲市の緑丘中学校)
 

天皇陛下の即位から1日で5年となった。新型コロナウイルス禍による行動制限が緩和されたことに伴い、両陛下は地方訪問を本格的に再開。能登半島地震の被災地を訪れた際は、被災者と目線を合わせて声をかけるなど、上皇ご夫妻から引き継いだ国民に寄り添う姿勢を示された。令和の象徴のあり方を模索する歩みを続けられている。

「家族のおけがはありませんでしたか。大変でしたね」。陛下は4月、能登半島地震で被災した石川県能登町の避難所を訪れ、被災した男性に話しかけられた。

両陛下は能登半島地震の被災地の4市町を3、4月に訪問。被災者にねぎらいや励ましの言葉をかけて回られた。天皇陛下が正座をされ、被災者より低い目線になる場面もあった。

 
能登町で両陛下から話しかけられた男性は「物腰柔らかく、優しく寄り添っていただいた。ありがたい」と振り返る。宮内庁幹部は「被災者に寄り添われる両陛下の気持ちが直接伝わった。意義深い訪問だった」と振り返る。

コロナ禍に見舞われた2020年以降、皇室の活動は大幅に制限を受けた。両陛下は代替策としてオンライン訪問に取り組まれ、コロナ禍の収束に伴い地方訪問を再開。23年は全国植樹祭など主要な4つの地方訪問行事「四大行幸啓」に全て現地で参加された。コロナ禍前の19年以来だった。

「各地を訪れた際に皆さんとじかに接することができたことは、大変うれしいことでした」。陛下は今年2月の会見で、直接訪問の意義を振り返られた。

即位から5年のうち、両陛下での地方訪問は24回、東京都内の行事への出席は73回に上る。22年以降に徐々に数を増やされてきた。側近は「両陛下は、じかに人と会って言葉を交わす素晴らしさを改めて体験されているのではないか」とみる。

海外との交流も本格始動した。

23年に即位後初めて国際親善目的でインドネシアを訪れ、今年6月下旬には英国を訪問される。

インドネシア・ボゴールの大統領宮殿でジョコ大統領と歓談する天皇、皇后両陛下(2023年6月)=共同
 

当初は20年に訪問予定だったがコロナ禍で見送られていた。両陛下とも同国に留学経験があるほか、英国王室とは皇太子時代にも交流があり、両国関係をさらに深められることが期待される。

英国では、陛下のライフワークである「水」研究と関係する施設も訪問される予定。インドネシアでも水関連施設を視察しており、世界が抱える課題の発信も取り組まれている。

陛下はこれまで外国訪問について「皇室が果たすべき役割の中でも重要な柱の一つ」と話されてきた。通訳を介さずに現地の人ともやり取りできる両陛下について、側近は「海外にかつて住んでいたこともあり、大変力を発揮される」と話す。

即位から5年で、大きく変わったのが両陛下の長女、愛子さまの役割だ。

即位時は高校生だった愛子さまは今春、学習院大を卒業し、日本赤十字社(東京・港)に入社。両陛下と共に皇族としての活動に臨まれることも増え、常勤嘱託職員となられた。

 
日本赤十字社に出勤した天皇、皇后両陛下の長女、愛子さま(4月、東京都港区)
 

愛子さまは両陛下とともに、能登半島地震に関し気象庁長官や日本赤十字社の社長らから進講を受けられた。2月にはケニアのルト大統領夫妻との昼食会に初めて同席し、英語でやり取りされた。側近は「色々な式典や行事に出るに当たっては、両陛下から所作などを聞いて出席されている」と話す。

天皇陛下も2月の会見で、愛子さまに関し「思いやりと感謝の気持ちを持ちながら、皇室の一員として一つ一つの務めを大切に果たしていってもらいたい」とエールを送られている。

上皇さまは上皇后さまと静かな日々を過ごされている。側近はこの5年間、上皇さまは両陛下や秋篠宮ご夫妻など「皆さんを見守る立場になると徹底されていた」と話している。(近藤彰俊)