火山本部発足 観測の強化に向けた司令塔に(2024年4月9日『読売新聞』-「社説」)

 日本は世界有数の火山大国ながら、観測や研究の体制は地震に比べて手薄だった。国は調査研究にあたる大学や自治体と連携を強化し、火山防災の向上に生かしてもらいたい。

 政府は今月、「火山調査研究推進本部」を文部科学省に設置した。火山対策の強化を目的とする改正活火山法に基づく措置で、今後は研究や観測を一元的に統括する「司令塔」の役割を担う。

 モデルとなったのは、1995年の阪神大震災を受けて発足した「地震調査研究推進本部」だ。全国の活断層を調査して危険度を評価するなどの成果を上げてきた。約30年遅れて、ようやく火山本部が発足した意義は大きい。

 火山については、地震と異なり、これまで日本全体の調査研究を取りまとめる機能がなかった。大学や研究機関が個別に研究を行い、成果を気象庁長官の諮問機関「火山噴火予知連絡会」に持ち寄るだけになっていた。

 しかし、個々の研究者による自主的な努力には限界がある。国主導で観測や調査を強化し、発生が懸念される富士山の噴火などの災害に備えなければならない。

 そもそも、日本列島には火山が集中しているにもかかわらず、国内には研究者が少ないことが長年、課題となっていた。

 現在も、国内で観測に携わる専門家は100人程度にすぎない。しかも、半数以上は政府職員や国立機関の研究員で、大学に所属するのは50人余りにとどまる。人材不足は深刻だと言えよう。

 国立大学への運営費交付金が削減され、いつ噴火するか分からない火山の研究などが先細りになっている。このままでは次代を担う若手研究者も育たない。

 火山本部はまず、十分な研究や観測の予算を確保し、専門家の育成に努めてもらいたい。火山を抱えている地域の自治体も、火山防災の素養がある専門職員を積極的に採用していく姿勢が重要だ。

 日本には111の活火山があるものの、観測施設の縮小や老朽化で十分に目が行き届いていない。2014年には御嶽山の噴火で計63人の死者・行方不明者が出たほか、18年には草津白根山本白根山が噴火し12人が死傷した。

 改正活火山法では、浅間山に日本で初めての観測所ができた8月26日を新たに「火山防災の日」に指定した。今年から各地で避難訓練などが行われる予定だ。

 火山本部が先頭に立って情報の発信や啓発を進め、火山災害に強い社会を築くことが重要だ。