進む円安 投機的な動きは容認できぬ(2024年5月1日『読売新聞』-「社説」)

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 円安が一段と進んで、日本経済を揺さぶっている。為替市場の過度な変動は悪影響が大きい。政府・日本銀行は、投機的な動きを容認しない強い姿勢を示すことが重要だ。
 4月29日の外国為替市場で、円相場は乱高下した。午前中に、1990年4月以来、約34年ぶりとなる1ドル=160円台へと急落したが、午後に入ると、一転して、154円台にまで急騰した。
 為替介入の効果が高くなると判断された場合、介入の有無を即座に公表しない「覆面介入」の形が取られることがある。
 財務省の神田真人財務官は30日、「介入について申し上げることはない」と明言を避け続けたが、金融市場では、政府・日銀が、円買い・ドル売りの為替介入を行ったとの見方が広がっている。
 政府・日銀は、投機的な動きが強いと判断したならば、 毅然きぜん とした措置で対応してもらいたい。
 160円台は、今年初めに比べ20円近い円安・ドル高となる。相場の変動が大きすぎると、企業が事業計画を立てにくくなるなどマイナスの影響が懸念される。
 神田財務官は、「投機による激しい、異常とも言える変動が、国民経済にもたらす悪影響は看過しがたい」とも指摘した。
 行き過ぎた円安は、日本経済にとって弊害が多い。
 物価高に賃上げが追い付かず、実質賃金は、今年2月まで2年近くマイナスが続いてきた。
 今春闘では、33年ぶりとなる高い賃上げ回答が相次いだが、円安が、輸入価格の上昇による物価高を招けば、実質賃金のプラス転換は難しくなりかねない。消費が落ち込めば、経済の好循環の実現は遠のいてしまうだろう。
 円安・ドル高の主因は、日米の金利差が大きく、ドルでの資金運用が有利なことにある。
 日銀は先週、政策金利を0~0・1%程度に据え置いた。一方、米連邦準備制度理事会FRB)は、今週、5・25~5・50%を維持するとみられ、円安圧力は続く見通しだ。政府・日銀は、市場動向に警戒を強める必要がある。
 日銀は、3月にマイナス金利政策の解除を決めたが、物価上昇率の基調が2%に至っていないとして、金融緩和を継続する方針を示した。その点を強調しすぎるあまり円安を助長してはいないか。
 円安は、物価の基調を押し上げる側面もある。日銀は、円安が経済や物価の動向に与える影響を丹念に分析して、今後の政策運営に生かしてほしい。