物流の2024年問題 荷主・消費者は意識改めて(2024年3月31日『中国新聞』-「社説」)

 働き方改革関連法に基づくトラック運転手の残業規制が4月1日に始まり、人手不足で物流が混乱する恐れが指摘されている。「2024年問題」だ。

 一般業種の残業規制は19年4月にスタートしたが、トラック運転手などは業務の特性や取引慣行に課題があるとして適用が5年間猶予されていた。トラック輸送業で常態化している長時間労働を解消するのは当然だ。

 ただ現在のような物流の維持は難しくなる。送料が高騰する可能性もある。荷主や消費者が意識を変え、安定したサービスを支えていく必要がある。

 運送業界は、インターネット通販の普及で配達日時を細かく指定する宅配便が増えている。長時間労働や低賃金でなり手が少なく、高齢化も進む。民間シンクタンクは、25年に全国の荷物総量のうち28%、30年には35%が運べなくなると推計している。

 業務を効率化し、運転手のなり手を増やすことを考えなければならない。それには荷主が圧倒的に優位とされる状況を見直す必要がある。

 荷主の都合で運転手が長時間待たされたり、荷物の積み降ろしまで頼まれたりするのが業界の実態だ。全日本トラック協会は「立場が弱い運送事業者の努力だけでは改善が困難」と訴える。荷物を運ぶことに専念してもらうためには、荷主の理解と協力が欠かせない。

 こうした状況を受け、政府は昨年7月に「トラックGメン」を設けた。荷主との取引が適切かどうか監視する。トラックを長時間待たせたり、運賃を不当に据え置いたりするケースに改善を促している。重い責任を自覚し、確実に成果を上げてほしい。

 また、政府はおととい、外国人労働者を中長期的に受け入れる特定技能制度の対象に自動車運送業などを追加することを閣議決定した。外国人材の活用も進めるべきだ。

 運送事業者には生産性の向上が求められる。業務の工夫やデジタル技術の活用で効率を高め、人手不足を和らげたい。中国地方では、複数の荷主の荷物を同じトラックで運ぶ共同配送や、倉庫の自動化などが進み始めている。物流の仕組みを大胆に見直す契機にしたい。

 消費者も協力できることが少なくない。運転手の負担を増やさぬよう再配達を減らす努力が要る。国土交通省によると、再配達を換算すると年間6万人の運転手の労働力に相当するという。細かい日時指定もできるだけ避けたい。

 送料の上昇も一定に受け入れる必要があるだろう。通販サイトでよく見られる「送料無料」の表示は輸送コストへの意識を薄める。人手がかかる以上、コストは発生する。燃料価格も高止まりしている。

 2024年問題の背景には人口減、働き方改革、インターネットの普及という大きな社会の変化がある。対応が遅れれば、影響はより深刻になる。事業者、国、消費者がそれぞれの立場で役割を果たして乗り切りたい。