残業規制の強化/労働力確保も同時に進めよ(2024年4月14日『福島民友新聞』-「社説」)

 長時間労働の解消にとどめず、処遇の改善、人員確保に向けた施策を強化することが重要だ。

 働き方改革関連法に基づく時間外労働(残業)の上限規制が今月から、建設業、自動車運転業、医師など4業種に導入された。長時間労働が常態化する業種で過労死などを防ぐためだ。

 一般業種への残業規制は2019年4月から順次行われてきた。トラックやバス、タクシーの運転手、医師などは国民生活への影響を考慮し、導入が5年間猶予された。しかし、規制強化後も自動車運転や医師は残業時間の上限が一般労働者より緩く、過労死ラインに当たる年960時間となった。

 残業時間の制限は働き方改革の第一歩でしかない。事業者などは従業員が健康的に働ける職場づくりを進め、労働時間の短縮を着実に実現しなければならない。

 今回の残業時間の規制強化が「2024年問題」として懸念されているのは、サービスを維持するための人材が確保できていないためだ。物流業界ではトラック運転手の不足で1割以上の荷物が運べなくなると推計され、地域の貴重な交通手段であるバスは、減便や路線の縮小が行われている。建設業では、従来より工期が長引いたり、人手不足で工事を受注できなくなったりして、経営難に陥る事業者が出るとの指摘がある。

 物流や公共交通などのサービス低下は過疎・中山間地域ほど影響が大きく、地域の暮らしを維持することへの不安も広がっている。

 国、県は経営の効率化や施設整備への投資などの取り組みに活用できる支援策を示している。事業者の収益を考慮せず、サービスの維持を求めるだけでは根本的な問題は解決できない。デジタル技術の導入による生産性向上、業務の効率化に向けた事業者間の連携を後押しするなど、支援に全力を挙げる必要がある。

 大手企業を中心に賃上げが活発化している一方、地方の中小企業は動きが鈍い。人手不足の解消は賃金を含めた待遇面の改善が欠かせない。国や事業者には、人件費を含めた適正な価格転嫁を進める取り組みが求められる。

 地方や救急医療の現場では、医師不足が深刻だ。今回、救急やへき地医療の従事者、研修医は特例として年1860時間まで延長が認められたが、国は将来的に特例の撤廃、上限時間の短縮などを実施する方針だ。

 国や自治体、大学病院は、情報通信技術(ICT)やチーム医療による省力化などを推進し、地域医療の持続性を確保すべきだ。