労働条件の抜本改善こそ必要
トラック運転手の時間外労働の上限が、4月から年間960時間に規制されました。とはいっても、一般労働者は、すでに時間外労働の上限が720時間になっており、上限が240時間も長くなっています。月平均80時間は、過労死ラインと同じです。
トラック運転手の労働条件は、全職業平均と比べて労働時間で約2割も長く、その割に賃金は、全産業平均より5~15%(20万~60万円)低くなっています。残業代をあてにしなければ、まともな生活ができない構造になっているという問題があります。全産業のなかで、トラック運転手は、過労死発生率が14年連続ワーストワンです。
ところが、政府やトラック業界などは、残業の上限規制によって、このままでは貨物の14%、4億トンが運べなくなる「2024年問題」が発生すると宣伝しています。しかし、これは問題のすり替えです。トラック運転手の不足は、あまりにも悪い労働条件によるものが大きく、労働条件の抜本的改善でこそ根本的に解決できます。
■規制緩和で悪化
かつては、稼げる職業と言われてきたトラック運転手が、長時間働いても低所得となってしまったのは、需給調整の廃止など規制緩和の結果です。1990年施行の物流2法によって、トラック事業は、需給調整を考慮に入れた免許制から基準をクリアすればもらえる許可制に、運賃は認可制から事前届け出制になりました。このため、トラック事業者は、2007年に1・6倍の6万数千者に増え、過当競争による運賃の低下、長時間労働という劣悪な状態に置かれました。
3月21日の衆院本会議で高橋千鶴子議員が、「トラック事業の危機を招いた原因は、政府の規制緩和路線にあるという自覚と反省はありますか」とただしたのに対し、斉藤鉄夫国土交通相は、「1990年の規制緩和によって、事業者数が増加したことなどにより競争が激しくなり、事業運営が厳しくなった事業者もある」と認めています。
物流時間の短縮の一環として、トラックの高速道路での速度制限を時速80キロから時速90キロへ引き上げることが4月から実施されました。トラック運転手の緊張と疲労を増やし、事故の増加につながりかねないもので重大です。
「2024年問題」に対応するものとして、国会で審議中の物流関連2法の改定案は、荷主、物流事業者への荷待ち・荷役時間削減のための取り組み、元請け事業者への実運送体制管理簿作成の義務付けや運送契約締結時の書面による交付の義務付けなどを盛り込んでいます。1990年以来の規制緩和の流れからは一歩前進です。しかし、トラック運転手の長時間労働や低賃金の改善、過労死防止の取り組みとしては不十分です。
■生活できる賃金を
トラック運転手が残業無しでも生活できる賃金となるよう、多重下請け構造のもとでの運賃の「中抜き」の防止、政府の定める「標準的な運賃」を最低運賃とする、2003年に廃止された営業区域規制を復活させる、トラック事業に許可更新制を導入するなどが必要です。