習氏の欧州歴訪 中国外交の限界を示した(2024年5月16日『産経新聞』-「主張」

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ハンガリーの首都ブダペストで握手するオルバン首相(手前左)と中国の習近平国家主席ハンガリー首相府提供・ロイター=共同)
 独善的な中国外交の限界を示した外遊だったのではないか。
 中国の習近平国家主席がフランス、セルビアハンガリーを訪問した。習氏にとっては国内の経済不振の打開に向けた対欧経済関係の強化や、米主導の対中包囲網を切り崩して欧州を自国側に抱き込む思惑があったのだろう。
 だが、経済を巡る欧州との対立は解消されず、ロシアのウクライナ侵略に関する見解もかみ合わなかった。習氏は、自らの狙いが不首尾に終わった現実を重く受け止めるべきである。
 米国との対立が続く中国にとって欧州との通商・経済関係の維持・発展は重要だ。これに対して欧州側では他国への経済的威圧などをやめない中国への警戒感が強まっている。
 特に巨額の補助金を受けて過剰に生産された中国製品が安価に流入していることへの反発が強く、習氏にはこの問題での欧州側への歩み寄りが求められていた。ところが習氏は問題の存在すら否定し、解決を遠のかせた。欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長は進展がなければ対抗措置も辞さない姿勢を示したほどである。
 ウクライナを巡る中国と欧州側の溝の深さも印象付けられた。マクロン仏大統領は首脳会談後の共同会見で「習氏がロシアに、いかなる武器も売却せず、軍事転用可能な物資の輸出を厳格に管理することを約束した」と発言した。一方の習氏は「中国は当事者ではない」と述べ、「ウクライナ危機を利用して、第三国を中傷したり、新冷戦を扇動することに反対する」と反発した。
 外遊先の選定からも中国外交の限界が窺(うかが)える。欧州主要国で訪問できたのは、米国とは一線を画す独自外交のフランスだけで、英国やドイツ、今年の先進7カ国(G7)議長国のイタリアへの訪問はなかった。
 ドイツのショルツ首相は4月に訪中したが、これで関係が好転したわけではない。帰国直後に独連邦検察庁欧州議会の情報を中国の情報機関に流していた疑いで欧州議会議員のスタッフをスパイ容疑で摘発した。
 セルビアハンガリーのように中国に接近しようとする国もあるが、欧州では総じて対中不信が根強い。中国の脅威に直面する日本もこの点を踏まえて欧州との連携を図るべきだ。