多数派と少数派(2024年4月19日『熊本日日新聞』-「新生面」)

左利きの書道は有りか無しか。 左利き書作家の考え

 

 苦手な科目は何でしたか-。左利きの大人は、かなりの割合で「書道」と答えるかもしれない

▼毛筆を使う書道は右手で書くことを前提としている。止め、はね、払いといった筆の運びは左利きには難しい。慣れない右手で書いてもうまくいかず、恥ずかしい思いをした人も多かろう

▼だが、時代は変わりつつある。中学校の書写の授業では来年度から、左利きの生徒向けの動画へ導く2次元コードQRコード)が付いた教科書も使われる。動画を見てみると、左利きでも美しい文字が書けるよう、右利きとは異なる筆の運び方が丁寧に紹介されていた。こんなデジタル教材が以前からあればよかったのに

▼共同体は、多数派と少数派に分かれがちだ。多数派は自分たちの考えを「当たり前」と思い、少数派を異端視する。少数派はストレスを感じ、仕方なく多数派に転じたり、強く反発したりする。けれど、共存できるのなら、それに越したことはないはず

▼やり方や考え方が異なっていても、争うのではなく、認め合ってそれぞれの幸せを追い求める。非現実的かもしれないが、多様性社会とはそうした社会のことだろう

▼世界では異なる民族間の対立が後を絶たない。力を持たない少数派への抑圧が続くこともあれば、少数派が武装闘争を続けるケースもある。対話を重ねて寄り添い合えば争いなど起きないと気づくのに、あとどれくらいの年月が必要なのだろう。書道におけるデジタル教材のような、垣根を取り払うきっかけがあればよいのだが。