マカオで売春10日間「幸せにする」の言葉を信じたから…女性は歌舞伎町のホストに完全にだまされた(2024年4月18日『東京新聞』)

 

 海外に渡航して売春し、トラブルに巻き込まれる日本人女性が相次ぐ。東京都在住の女性は昨年、新宿・歌舞伎町のホストにはまったことをきっかけに、海外での売春を強いられた。危険な目に遭い、疲れ果てて帰国。気持ちがどん底にまで落ち込み、今も立ち直れずにいる。(中村真暁)

◆月1000万円を現金とクレカ30枚で使わされ

 会社員だった女性が歌舞伎町のホストクラブを訪れたのは、昨年1月。動画投稿サイトで応援していたホストに会うためだった。目当てのホストに抱きつかれ、贈り物ももらった。結婚を見据えているとも言われ、引っ越して同居状態になった。
 
海外売春を経験した女性。その怖さを強調した=東京都新宿区で

海外売春を経験した女性。その怖さを強調した=東京都新宿区で

 要求はエスカレートした。同4月には「店のグループで人気1位になりたい」と言われ、現金とクレジットカード30枚で約1000万円を使わされた。来店と同時に300万円をカード決済されたことも。ついには店で使うカネを稼ぐため、海外で売春するよう言われた。「嫌がると怒鳴られ、物を投げつけられた。お金がなくなるのも怖かったし、彼が好きだから頑張るしかなかった」

◆現地の客は避妊拒否、首を絞められたことも

 ホストが指定した業者の男に連絡し、自費でマカオ渡航。ホテルで1日5、6人の相手をした。「苦痛で仕方なかった。逃げたい気持ちでいっぱいだった」。客から避妊を拒否され、首を絞められた。性病が怖くても言葉が通じず、毎日泣いた。体調を崩し、予定より早い10日間ほどで帰国した。1時間3万円のはずの報酬は、いまだに受け取っていない。
 
東京・新宿駅周辺の夜景(資料写真)

東京・新宿駅周辺の夜景(資料写真)

 帰国後も店に通い、入金が滞るとホストから責められ、大げんかになった。その後は、音信不通の状態になった。「裏切らない、幸せにすると言われて信じてきたが、マインドコントロール(洗脳)されていただけだった。本当の愛はなかった」

◆別れた今は…「他の人には行かないでほしい」

 1500万円の借金を抱えた女性は今、性風俗店で働く。精神状態が不安定で、食が細くなり、ビルから飛び降りたくなることもあるという。「海外売春は危険が多く、行方不明になった人もいるのでは。他の人には行かないでほしい」
 この女性を支援する一般社団法人「青少年を守る父母の連絡協議会」(新宿区)の玄秀盛代表は「売春あっせんは人身売買であり性的搾取。海外売春や性産業で女性が商品化される問題を、社会はもっと重く受け止めてほしい」と訴える。
 ◇

◆「言葉通じず、何されるか危険」現地で犯罪にも

 海外売春を巡り、警視庁は今年1月末と4月上旬、国内から女性をあっせんしたとして、2つのブローカーグループを職業安定法違反容疑で相次いで摘発した。うち、求人サイトで女性を募集したグループは、過去3年間に200〜300人を米国やオーストラリア、カナダなどの売春業者に仲介したと供述。多くの女性が渡航した恐れがある。
 警視庁の捜査幹部によると、捜査の端緒は昨春、米国土安全保障省からの「売春目的の渡航の疑いで、日本人女性を入国拒否するケースが相次いでいる」という連絡だった。両グループとも女性を渡航させる際「観光目的」を強調するよう指示していた。
 
(画像と記事本文は関係ありません)

(画像と記事本文は関係ありません)

 捜査幹部は海外売春について「言葉が通じず、何をされるか分からない危険がある」と、リスクを指摘する。実際に、客から違法薬物を強制されそうになったほか、殴られたりモデルガンで撃たれたりした女性もいる。現地の業者と料金トラブルになり、砂漠で土下座させられ「しゃべったら殺す」と脅されたケースもあったという。
 売春はほとんどの国で非合法の上、観光目的で入国すれば不法就労にもなりかねない。捜査幹部は「犯罪に巻き込まれるだけでなく、自分で犯罪に手を染める恐れもある」と警鐘を鳴らした。(小倉貞俊)