新生活の若者への注意喚起に「ホスト」も追加すべきと考える理由(2024年4月7日)

サークルの先輩に紹介されたアルバイト

 都内在住のフリーター・中島愛香さん(仮名・20代)も、大学生になった直後にとあるサークルに参加したことで、結果的にホストにハマってしまい、何もかも失った。

「都内の私大に進学が決まり、関西から上京しました。東京生活には憧れていたものの、ホストはドラマやニュースで見て怖いと思っていたし、元から興味もなく、私がホストクラブに通うなんて、本当に全く想像もしていなかったんです」(中島さん)

 大学の入学式が終わり、新たに入ったスポーツ系サークルの先輩達との交流も始まったが、そのサークルにいた2学年上の男が中島さんを後に地獄へ突き落とす男・X(当時大学3年)だった。Xは金髪のミディアムヘアで、いかにも遊び慣れた大学生という出で立ちだったが、中島さんや新入生たちに気軽に声をかけ「何でも相談してほしい」とLINEを交換して回っていたという。その当時の印象は「チャラそうだけどリーダーシップがある」というものだったと、中島さんは振り返る。

「東京の生活は大変だから相談してと言われて、面倒見のいい先輩だと最初は思ったんですね。何回かサークルの会合で会ううちに、Xさんがアルバイトも紹介できると言い出しました。仕送りも少なく、自分の生活費くらいはアルバイトで捻出しようと考えていた私は、そのXさんの話にまんまと乗りました」(中島さん)

 中島さんがXに「お金が必要」と打ち明けると、その瞬間から、Xによる怒涛の斡旋が始まった。

「稼げるのは夜、と言われましたが、18歳でお酒も飲めないし、ましてキャバクラやスナックで働くなんて考えられませんでした。でも、ガールズバーなら接客も適当でいいし、普通のバイトよりは稼げると言われました。流れに押されて結局、ガールズバーの面接に行くことになったんです」(中島さん)

 当然、実家の親には内緒で始めたが、その後ろめたさもあってか、早く夜の世界に順応して金を稼ぎ、余裕ができたら普通のアルバイトに転職すれば良いと軽く考えていた中島さん。だが、それから一ヶ月もしないうちに、店で仲良くなった元キャバクラ嬢に誘われホストクラブへ遊びに行った。これが中島さんの運の尽きだった。

「ホストクラブに行くと、そこにいたホストがXさんだったんです。後から分かったことなんですが、実はXさんはホストの仕事もしていて、アルバイトを紹介した女性を、人を介してうまくホストに誘導させていました。私が店に入ると、いつもの調子で声をかけてきてくれましたが、私の横に全然知らないホスト・Yを座らせたんです」(中島さん)

 ほとんど男性経験のなかった中島さんは、最初こそホストの立ち振る舞いに引き気味で、早く帰りたいとすら思っていたが、ホストのYは18歳の女子大生にもお構いなしに、どんどん酒を飲むよう煽ってきたという。

「Xさんから初回は5000円で何時間も飲み放題、と言われました。結局そのまま酔っ払ってしまい、私についたYにホテルへ連れていかれました。それからも、毎日マメにメッセージが来て、ものすごく褒めてくれたり、安心させてくれるようなことばかり言ってくれて、結局Yに恋愛感情を抱いてしまった。世間知らずで田舎者だったんです。ハマった自分の自業自得としか言いようがないんですが、経験の少ない新女子大生を狙う卑劣なやり方でした」(中島さん)

 当初、Yは「お金がないと思うからホストには来なくて良い」などと吹聴していたという。しかしこれは、中島さんの恋心をくすぐる、狡猾なホストならではのテクニックだった。

「会いたいと思っても、Yはホストで忙しいから会えない。でもお店に行ったら会える、という状況を作り出して、あえて私を突き放したんだと思います。会いたくてたまらない私は結局Y目当てでホストに通い始め、三ヶ月もしないうちに、ガールズバーの同僚に借金までするようになりました。Yは涙を流して”これ以上頑張らなくても良い”と言いましたが、これもホストの手口。それから間も無く、もっと頑張ってくれるのならといって紹介してきたのが、風俗の仕事でした」(中島さん)

 新大学生になり、わずか半年後にはホスト通いのために体を売るようになった中島さん。風俗で働き大金を準備する必要があったため大学に通うのもままならなくなり、程なく退学。身も心もYにコントロールされつつも必死に健気に働いたが、ある日、かつて同じサークルだった同級生の友人から、聞きたくなかった衝撃の事実を知らされ、中島さんの精神は崩壊した。

 実は、XもYも元々は同じホストクラブグループの仲間で、自身たちが所属する大学サークルやバイト先の女性に声をかけてはホストに誘導し、さらに風俗の仕事を斡旋していたというのだ。

「友達は、Xと仲が良さそうだった私を心配して電話してきてくれたんですが、まさかすでに私がその被害にあっているとまでは思わなかったようです。頭が真っ白になり、その後、何を話したかも覚えていません。XやYにその事実を突きつけられてもしらばっくれ、”お前が頼んできたんだろう”と私と向き合う気さえない。結局全部仕組まれていて、若い無知な私が引っかかっただけなんです」(中島さん)

 X自身も、元々はサークルの先輩の紹介でホストを始めたというが、サークルの女性たちにまで声をかけ、搾取の対象にしようと暗躍し始めたのは、コロナ禍以降のことだったようだと中島さんはいう。

「実際、私の一学年上のサークルの女先輩も、Xに言い寄られて付き合って以降、服装がどんどん派手になり、風俗で働き始めて大学を辞めていたと聞きました。あの時、Xと会話していなければ、ガールズバーで働かなければと、今振り返ってもどうしようもないですが後悔しかありません。大学の中だからと安心していてはダメなんです」(中島さん)

マッチングアプリに出会いを求めたら

 都会に出てきたばかり、社会経験もほとんどない、まだ半分子供のような女子大生ですら積極的にターゲットにしようとするホストである。ターゲットが新社会人になった場合の「落とし方」はさらに過激になる。神奈川県在住の会社員・丸尾瑞希さん(仮名・30代)が、嫌な思い出を振り返りつつ、訴える。

「新社会人になって足りなかったのは、異性との出会いでした。奥手で、男性経験も少なかった私はとりあえずマッチングアプリに登録して、良さそうな人がいないか探し始めました。そのマッチングアプリで出会ったのが、私を騙して風俗に落としたホスト・Zでした」(丸尾さん)

 Zは当初、自身の職業を「会社員」と偽って丸尾さんに接近してきたという。数日間に及ぶやり取りの末、Zと会うことになった丸尾さん。その後も数度デートを重ねたが、ある日急に「実はホストだった」と打ち明けられたという。

「Zは会社で働いているが、人の借金の肩代わりをしたためやむなくホストもやっているんだと言って、私に謝ってきました。さらに、もっとお金を稼がなければならず、ホストで忙しいから会えなくなるとも言われました。今考えれば、私をハメるための嘘だったことは明らかですが、恥ずかしながら、私自身も舞い上がっていたんだと思います」(丸尾さん)

 こうして、普通の新社会人だった丸尾さんは、半年ほどの間にホストから抜け出せなくなり、やはり風俗で働かざるを得なくなった。しかし、これらは全て、Zの思惑通りに事が進んだ結果だった。

「実は、風俗で働くようになってから知り合った知人も、Zとマッチングアプリで知り合い、私と同じようにホストにハマらされて風俗で働くようになっていました。私は騙されたと思い問い詰めると、逆上して顔やお腹を血が出るまで、青あざができるまで殴られました。でもその後は泣いて謝り、店に来て欲しい、俺を助けて欲しいと土下座する。最初は許そうという気持ちになってしまいましたが、それが何度も繰り返され、私もやっと目が覚めたという感じです」(丸尾さん)

 中島さんも丸尾さんも、ホストに騙され風俗に身を落とし、青春を謳歌するはずだった貴重な時間を奪われた。それでも、ホストに騙されたことを知り、自死するような悲惨な女性たちに比べたら、自分たちはまだ助かった方だと丸尾さんはいう。

「ホスト通いを始め、風俗で働き始めるというパターンにまさか自分がハマるとは思いませんでしたし、正直、ホストなんかにハマる方がおかしいとさえ思っていました。でも、彼らは人の心の隙を狙っています。新生活を楽しみにしつつも不安を抱く新社会人や新大学生なんかは、格好のターゲットなのでしょう。一度ハマったら、なかなか抜け出せない。若い人には、とにかく自分を大切にして欲しいと思います」(丸尾さん)

 果たして、こうした被害者の声が新社会人、新大学生の女性たちに届くだろうか。おそらく、中島さんや丸尾さんを見て「自分はこうならない」と感じているはずだが、そう思う人ほど、被害者になり得る可能性が高く、ターゲットにされやすいという現実を、今一度心におきとどめて欲しいと切に願う。

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