司法の大道(2024年4月18日『福島民友新聞』-「編集日記」))

 最高裁の初代長官だった三淵忠彦は、戊辰戦争会津藩の責任を一身に背負って切腹した家老萱野権兵衛のおいだ。身欠きにしんの天ぷらなど故郷の味を愛した忠彦は、会津人らしい一本気な性格だったという

 ▼真面目でごまかしが一切通用せず、判決の論理が精緻なため「司法界の諸葛孔明」と呼ばれていた。最高裁の同僚に「われわれは天下の大道を歩こう」と呼びかけたことはよく知られる。抜け道や裏道を通らず、真正面から法律に向き合う姿勢を貫いた

 ▼NHK朝ドラ「虎に翼」のモデル三淵嘉子は、忠彦の長男乾太郎の妻だ。女性初の弁護士、裁判官となり、家庭裁判所の設立にも尽力して所長を務めた

 ▼嘉子が弁護士になった当時、結婚した女性は民法で「無能力者」と見なされるなど女性差別が色濃かった。法曹界で道を切り開いてきた嘉子の原動力は、女性や子どもらの権利を守りたいとの思いだった

 ▼離婚後の共同親権を導入する民法改正案が、国会で審議されている。家族の形が法的に変わるかもしれないなかで、最も大切なのは子どもの幸せを追求すること。そこに真正面から向き合わなければ、ドラマの主人公の口癖「はて?」とのせりふが国民から出かねない。