国の「機能性表示食品」制度の見直しは避けられない。
小林製薬の「紅こうじ」成分を含むサプリメントの健康被害問題がきっかけだ。腎疾患などによる死者5人、入院者延べ235人を出し、相談件数が8万2千件に上る事態を招いている。
「悪玉コレステロールを下げる」と効果をうたったサプリ3商品は、累計100万個を売り上げた。機能性表示食品は安全性や効果について国が事前に審査せず、事業者の責任で根拠を示して届け出れば名乗ることができる。
深刻なのは、小林製薬の製品以外でも機能性表示食品の健康被害が判明したことだ。消費者庁が届け出のある約1700事業者に調査し、18製品で計117件あった。直ちに対応が必要でないとして製品名を公表していないが、重篤な入院例があるといい、看過できない。しかも、いずれの業者も「報告は不要と判断した」と回答した。
消費者の命を守れない制度なら廃止も検討すべきだ。
2015年に安倍政権が成長戦略の一つとして始めた。国が審査して許可する特定保健用食品(トクホ)より大幅に規制緩和し、市場は急拡大した。当初から消費者団体や弁護士らが、国のお墨付きを得たかのように誤認させる制度だと警告していた。事業者の利益と引き換えに、国民の安全をないがしろにするようでは許されない。
小林製薬の健康被害で浮かんだのは、事業者任せにし過ぎる制度だという点だ。
安全性と効果の科学的根拠として業者が示すデータは、消費者庁のサイトで公開されている。だが専門知識の乏しい消費者に、その情報だけで判断を求めるのは無理筋だ。
品質や衛生の安全管理は、どの程度、徹底されていたのか。今回のサプリ原料を製造していた工場は、品質や衛生管理に関する指針「GMP(適正製造規範)」の認証を取得していなかった。健康食品の製造では、取得はあくまで努力義務に過ぎない。
被害の原因として、想定外の青カビの混入が疑われている。小林製薬にとって初めて菌類を培養した製品だったことも分かった。国の規制が適正だったのかが問われよう。
政府は制度の見直しを検討している。近く消費者庁が有識者による検討会の初会合を開き、5月末に方向性を取りまとめる。制度の弊害を洗い出すことから始めてほしい。
最低限、健康被害が起きた場合は国や保健所への報告を事業者に義務付けるべきだ。制度のガイドラインは「被害の発生及び拡大の恐れがある場合」と定めている。しかし、被害の度合いや報告期限の基準は曖昧で、事業者の判断に委ねている。
小林製薬は、医師からの指摘で被害を把握後、公表までに2カ月もかかった。遅れたのは原因調査を待ったためとするが、消費者の安全より自社の損失回避を優先した判断が透ける。経営陣の危機意識も薄かったのだろう。
事業者は皆、安全第一―との「性善説」に立てば、再発防止につなげられない。