「自然の書物は数学の言語で書かれている…(2024年4月17日『毎日新聞』-「余録」)

大発生が予想される17年周期の「素数ゼミ」=米バージニア州で2021年5月撮影、ロイター

大発生が予想される17年周期の「素数ゼミ」=米バージニア州で2021年5月撮影、ロイター

ジョージア州で見つかった羽化を待つ「素数ゼミ」の幼虫。大発生が予想されている=2024年3月撮影、AP
ジョージア州で見つかった羽化を待つ「素数ゼミ」の幼虫。大発生が予想されている=2024年3月撮影、AP

 「自然の書物は数学の言語で書かれている」。17世紀のイタリアの天文学者ガリレオの言葉である。著作「偽金鑑識官(にせがねかんしきかん)」に「それなしには暗い迷宮をさまよう」と記している

▲この書にセミが登場する。鳥や虫の鳴き方を究明するうち、セミが鳴く仕組みがわからず、人知を超えた自然の姿に無知を自省する。さらなる探究の必要性を説いたのだろうが、教皇はこの一節を気にいったという。人の手には届かない世界が存在すると受け止めたらしい

ガリレオがこのセミの存在を知ったら喜んだのではないか。13年と17年間隔で羽化する北米の周期ゼミである。氷河期の生き残り戦略と突き止めた静岡大の吉村仁(よしむら・じん)名誉教授は「素数ゼミ」と名付けた

▲かつては違う周期のセミもいたが、他の周期との最小公倍数が大きい素数周期のセミは多くの子孫を残せたらしい。別種のセミと出会う確率が減るからだという。まさに「数学の言語」だろう

▲13年ゼミは温暖な南部、17年は北部に生息する。今年は特別だ。米中西部のイリノイ州アイオワ州などで2種が同時に羽化する。13×17で221年ぶりの大発生という。今月下旬から最大1兆匹が羽化するというからどんな現象になるか

▲日本ではニイニイゼミが減り、クマゼミが増えているそうだ。温暖化の影響とすれば自然の摂理とは言い難い。夏のイメージが強いセミだが、松林で鳴くハルゼミもいる。4月から夏日が続くようでは将来が心配である。<春蟬(はるぜみ)を聞いて仰(ぎょう)臥(が)の手足かな>山口誓子