盛岡の景観保全、岐路に 市は保護ルールの厳格化を(2024年4月16日『河北新報』-「社説」)

盛岡の景観保全、岐路に 市は保護ルールの厳格化を(2024年4月16日『河北新報』-「社説」)


 盛岡市の歴史的景観の保全が岐路に差しかかっている。現在、藩制時代の商家などが点在する同市紺屋町の中津川沿いに14階建てマンションの建設が計画され、国の重要文化財岩手銀行赤レンガ館」の前では15階建てマンションの建設が進む。保存が危ぶまれている歴史的建造物も少なくない。市は早急に、積極的な保護策を講じるべきだ。

 問題の根源は市の景観保護ルールの甘さだ。紺屋町のマンション建設計画で改めて浮き彫りになったと言えよう。

 マンション計画地は、清流の中津川に面して深沢紅子野の花美術館など文化施設もあり、街と自然が最も調和した地区の一つ。住民の多くが、建造物の高さやデザインに規制があると認識していた。しかし実際には、高層建築物も建てられる「近隣商業区域」だった。

 かつて、計画地には町のシンボルだった大正期の酒蔵が立っていたが、経営者が替わり昨年解体された。代わって立つのが14階のマンション。住民が街並みの急変に不安を募らせるのは当然だろう。

 市は、開発を手がける不動産会社と住民が協議する場を設ける方針を示す。しかし優先すべきは仲介ではなく、景観保護のルールを厳格化し実効性を高めることだろう。赤レンガ館前マンションのように着工後では手遅れになる。

 規制の緩いルールとともに、市の消極姿勢も景観の保全を危うくしている。歴史的建造物が失われようとしても、市は「私有財産への介入は困難」との方針を貫き有効な手を打ってこなかった。

 象徴的な事案が、広大な市保護庭園を有した料亭「大清水多賀」。2013年に廃業し住宅会社に売却された。市民有志が市、会社に保存を求めたが、聞き入れられずに壊された。この跡地には15階のマンションが立ち、緑豊かで風情があった街の面影はない。

 盛岡の歴史的景観は、市民が中心となって守ってきた。古い街並みが最も多く残る鉈屋町地区。20年ほど前には道路の拡張計画が持ち上がり、多くの町家が取り壊される危機にあったが、住民が立ち上がって計画を阻止した。今では酒蔵や町家を活用した交流施設が整備され、観光スポットになっている。

 藩制時代から続く旧市街が空襲に遭わず、古い商家や町家、洋館が残った盛岡。多くが失われた他都市に比べて歴史遺産に恵まれたにもかかわらず、都市化を優先した時代の流れや所有者の負担から現存する物は決して多くない。

 貴重な建造物をもう失わないために、私有財産ではなく公共財と捉えて積極的に保護すべきだ。町家の解体に届け出制を導入し、保全に努める京都市の取り組みなどは参考になる。米紙ニューヨーク・タイムズで「歩いて回れる宝石」と紹介され街並みが海外で評価されたことも、政策転換の大きな後押しになろう。