ラムサール条約/住民理解促し実現果たそう(2024年3月14日『福島民友新聞』-「社説」)

 本県の豊かな自然を象徴する猪苗代湖の登録への機運を、県全体で盛り上げていきたい。

 水鳥の生息地として国際的に重要な湿地の保全を目指す「ラムサール条約」で、本県の猪苗代湖の登録に向けた動きが活発化してきた。日本野鳥の会の郡山、会津支部から条約登録を進めるよう要望されていた県が「地域の活性化に資する」として、郡山、会津若松、猪苗代の立地3市町と対応を進めていく意向を示した。

 国内での条約登録には、国際的に重要な湿地、国の法律によって将来にわたり保全が図られる、地元住民などからの賛意―の3点が条件になっている。磐梯朝日国立公園に属し、コハクチョウの生息数が一定の基準を超えている猪苗代湖は、地元の賛意が得られれば全ての条件を満たせる状況だ。

 登録後に新たな規制は生じることがなく、立地市町も登録に意欲的で、住民などの賛同は得られやすい環境にある。登録が実現すれば、国内外の認知度が向上し、環境保全の取り組みの広がりなどが期待できる。県と立地市町は、条約登録の意義や利点について住民の理解醸成を図る必要がある。

 日本野鳥の会によると、国内4番目の面積を誇る猪苗代湖は、カイツブリマガモ、バンなど約70種の野鳥が生息している。水道や農業用水、水力発電の水源などとしても人々の生活を支えている。

 条約は「保全・再生」「賢明な利用」と、これらを促進するための「交流・学習」が考え方の基本にある。水鳥の生息地としてだけでなく、地域住民の生活と産業とのバランスを保ち、恵みを持続的に活用することを提唱している。

 猪苗代湖では自然保護団体や子どもたちが水質悪化につながる漂着水草の回収、湖岸のごみ拾い、ヨシ刈りなどを行っている。条約の考え方に沿った環境保全や学習の活動が進められており、条約湿地にふさわしい湖といえる。

 ただ最近は湖水の中性化などで水質悪化の傾向にある。また外来種の魚が流入し、捨てられた釣り針や糸による野鳥など生態系への影響が懸念されている。

 県は、条約登録への動きをこうした湖の現状を多くの県民が理解し、環境保全への意識の高まりにつなげていくことが大切だ。

 現在、国内には本県にまたがる尾瀬を含め、登録湿地が53カ所ある。登録を機に多くの観光客が訪れたことで、環境に負荷がかかった湿地もある。猪苗代湖の貴重な生態系を後世に引き継ぐため、県などは過度な利用を防ぐための対策も検討してほしい。