セレンディピティ(2024年4月14日『福島民友新聞』-「編集日記」)

 「辞書は、言葉の海を渡る舟」。三浦しをんさんの人気小説「舟を編む」の一節だ。多くの人が長く安心して乗れるような、寂しさに打ちひしがれそうな旅の日々にも心強い相棒になるような舟を―。出版社の人々が新しい辞書「大渡海」の編集に情熱を注ぐ

 ▼ドラマ版では「セレンディピティ」という言葉がよく登場した。思わぬことから幸運を引き寄せる力などの意味がある。紙の辞書で目的の言葉を引いたとき、自然とその他多くの言葉に出合い、世界が広がるのもその一つ

 ▼劇中、大渡海の監修を担う老学者と出会った少年が、ある言葉の本当の意味に気付き、辞書編集の世界へと進む。人や言葉との巡り合わせが、思わぬ未来につながっていくエピソードだ

 ▼新年度が始まって2週間。新入社員の間には、配属先の当たり外れなどを、何が出てくるか分からないカプセル玩具になぞらえた「配属ガチャ」という言葉がある。希望がかなわず、落ち込んでいる人も少なくないだろう

 ▼学校のクラス替えや、パートナーの転勤で引っ越すことなども「ガチャ」と言える。気苦労は尽きないが、新たな環境を前向きに受け入れてほしい。いい人生を編む出会いが、近くにあるはずだから。