春の新聞週間 ニュースで日々豊かに 情報社会との付き合い方(2024年4月6日『毎日新聞』)

 日本新聞協会毎日新聞社など全国の会員新聞・通信・放送社は、4月6日に始まる「春の新聞週間」に合わせ、水野良樹さん(ソングライター、音楽グループ「いきものがかり」メンバー)、山極寿一さん(霊長類学者、総合地球環境学研究所長)、横沢夏子さん(お笑いタレント)にインタビューした。新聞との付き合い方、情報収集の工夫などについて聞いた。

丹念な取材に価値 音楽グループ いきものがかり水野良樹さん

音楽グループ「いきものがかり」の水野良樹さん
音楽グループ「いきものがかり」の水野良樹さん

 街で暮らす多くの人たちに音楽を届けたい。どの年代の人にも、どんな価値観の人にも聴いてほしい。だから、世の中で起きていることや問題について、バランス良く知りたいと考えている。特別なことをしているわけではない。情報収集に最もよく使うのはインターネットだ。ただ、ネットの記事を読む際には、新聞、テレビ、週刊誌、ネットメディアと、発信元は確認する。

 今のネット社会では、特定のアルゴリズム(計算手法)によって興味のある情報が流れてくる。世の中の出来事について、自分が知っていることは限られている、という前提を忘れないようにしている。自分の考えに偏りがあるかもしれないということも。だから、自分の意見と正反対の記事や意見をあえて読む。感情的ではなく論理的で、しっかりとした根拠があり、議論の勝ち負けではなく問題の解決を目的としている情報が欲しい。

 こうした記事に触れると、自分の意見が偏っていたと気付かされ、立ち位置を修正できたり、考えが深まったりすることが少なくない。自分たちのグループについて報じられたとき、「報道された内容と事実がこんなに違うものか」と思ったことがある。やはり事実の確認をしっかりしているメディアの方が信頼できる。

 時間と労力をかけて取材することが新聞の強み。生活の中に新聞があって、新聞が届くことをリズムにしている人たちがたくさんいる。「デジタルネーティブ」と呼ばれる若い世代も、ネットにあふれた真偽不明の情報の危うさを分かっている。閲覧数を競い合うネットの潮流に合わせてセンセーショナルな記事を書くのではなく、読者のために、丹念に取材を続けてほしい。

読んで人と話そう 霊長類学者、総合地球環境学研究所長・山極寿一さん

霊長類学者、総合地球環境学研究所長の山極寿一さん
霊長類学者、総合地球環境学研究所長の山極寿一さん

 新聞は「世界地図」だと思っている。見出しに目を通すだけでも日本や世界の出来事を知ることができる。自分が知ろうとする以外の情報が網羅的に入る良さがある。

 ただ、これからはニュースをいち早く報道する使命をいったん留保し、賛否両論を交えながら徹底的に掘り下げ、読ませる記事を書くことに力を入れるべきではないか。科学技術分野でも生命倫理やロボットに人類がどう向き合うかなど、総合的に考えるべき話題が多い。これらを一過性のニュースにはせず、過去にさかのぼって現代を考え、未来を語ってほしい。

 新聞は、読者の考えを提示する媒体になってはどうか。識者や一般の人も交え、議論する場を紙上につくる。今はSNS(ネット交流サービス)がその場になっているが、新聞のような編集がなされないから暴力的な言動やうそもあふれる。

 若い人は新聞よりもインターネットやSNSを見ている。キーワード検索すれば好きな情報が手に入り、嫌いな情報は見ずに済む。幅広い知識や異なる見方を探索する機会がなく、非常に閉鎖的に映る。社会は情報だけではなく、情報から考えやアイデアを紡ぐことで成り立っている。

 AI(人工知能)と人間の最も大きな違いは意識を持つかどうかだ。AIは情報を組み合わせて体系化する装置だが、情報が持つ意味を理解するわけではない。人間は得た情報を身体に落とし込み、意思決定などの行動に反映させる。実際に身体で感じられる誰かや何かと出合い、気付きを得てほしい。新聞を読み、目に留まったニュースを誰かと話してみよう。まさに出合いと気付きを得られるはずだ。

人を動かす力ある お笑いタレント・横沢夏子さん

お笑いタレントの横沢夏子さん拡大
お笑いタレントの横沢夏子さん

 夫が仕事のために新聞を取っていて、子どもを寝かしつけた後、そのアカウントを使って読むことがある。昔は朝に読むものというイメージがあったけど、今はタブレットで好きな時間に好きな場所で読めるのがありがたい。

 小さい頃から郵便受けに新聞がカタンと入るのを心待ちにしていた。お悔やみ欄とか子どもの誕生欄とか、地域の情報を見るのが好きで、学校の先生の離任が発表される日には「自分の人生が変わるかも」って食い入るように人事を見ていた。

 今も気になるのは、地元の新潟・糸魚川のニュース。昨年、総合病院で産婦人科の医師が不足して、友人たちも困っていたし、里帰り出産ができなくなるんだとショックを受けた。年末に1人、医師が着任するといううれしいニュースもあった。物語のようにその後を知れることが新聞の良いところだと思う。

 SNS(ネット交流サービス)の時代でも、新聞が人を動かすと思ったことがある。ネタ中に赤ちゃんが泣き出してオロオロするお母さんを何人も見て、劇場に臨時の託児所を設けたことがあった。地元の新聞に載せてもらったら、当日来てくださった方の大半が「新聞を見て来た」と。子育て中は、そうした地域とつながる耳寄り情報がとても助かる。

 自分も妊娠中や出産後はネット上の情報に踊らされることが多かった。孤独だったり、何もかも新しい環境だったりするからこそ、出どころの確かな情報の大切さを感じた。

 子どもも文字を読めるようになってきた。自分は小学校の玄関に張ってあった小学生新聞を読むのが好きだった。知らない言葉や自分と違う世界を知れるツールなので、何よりの教科書になると思う。


親子の対話深める活用法

 「おうち学習の“ワッ!”くらぶ」は、子育て世代向けのオンラインコミュニティー。新聞を使った学びや遊び、親子の対話を深める新聞活用法などを提案している。新聞各社の子ども向けイベントや教育関連事業も紹介している。会員は2024年3月時点で約7万2000人。日本新聞協会が21年に開設した。

日本新聞協会とは

 全国の新聞・通信・放送各社が倫理の向上を目指す自主的な組織。新聞の魅力を伝える活動、NIE(教育に新聞を)の普及にも取り組んでいる。横浜市でニュースパーク(日本新聞博物館)を運営している。


新生活、新聞とともに

 日本新聞協会は4月6日から1週間を「春の新聞週間」と定めている。進級・進学、就職など新生活が始まる時期に合わせて新聞の魅力を伝えるキャンペーンを実施している。


 ■人物略歴

水野良樹(みずの・よしき)さん

 1982年生まれ。神奈川県出身。99年にいきものがかりを結成し、2006年にシングル「SAKURA」でメジャーデビュー。21年に新聞連載をもとにしたエッセー集「犬は歌わないけれど」(新潮社)を刊行。清志まれの筆名で作家としても活動している。


 ■人物略歴

山極寿一(やまぎわ・じゅいち)さん

 1952年生まれ。東京都出身。屋久島で野生ニホンザル、アフリカ各地で野生ゴリラの研究に従事する。2014~20年に京大学長。21年から現職。近著に「森の声、ゴリラの目 人類の本質を未来へつなぐ」(24年、小学館)がある。


 ■人物略歴

横沢夏子(よこさわ・なつこ)さん

 1990年生まれ。新潟県出身。「ひとり芸」のコンテスト「R―1グランプリ」で、2016年から2年連続で決勝に進出した。3人の子どもを育てながら、バラエティー番組や情報番組、CMなどに出演中。ベビーシッターの資格を持っている。