楽しい夕食(2024年4月14日『福島民報』-「あぶくま抄」)

 反則技が横行するプロレス、親の目を盗んでチャンネルを回した深夜番組…。昭和のブラウン管を彩った思い出の数々も、令和の今では放映がはばかられる。俳優の金子信雄さんが出演した「楽しい夕食」も、そうかもしれない

▼県内でも、1987(昭和62)年から8年間続いた。任俠[にんきょう]映画の名優に料理家の顔があったのか―。世間を驚きに包む。手軽においしくできる調理法を教え、男性までも厨房[ちゅうぼう]に誘った。試食の際には酒を楽しみ、酔ったと疑われる日も。共演する女性への際どい発言に、ヒヤリとした覚えもある。でも、どこか憎めない愛らしさがあった

▼こちらの微妙なさじ加減は、さまざまな反応を呼んでやまない。自民党政治資金パーティー裏金事件を巡る一斉処分。岸田文雄首相自ら、「まな板」に乗らなかった姿勢に不信がくすぶる。大物議員が離党し、再審査を求める動きも出た。党内に吹き荒れる春の嵐は、政変への序章か

▼「料理がうまくできるだけでは駄目。器が清潔でないと」。金子さんは晩年、詩経を引いて政治を戒めた。首相は政界全体の清廉な土台を固め直せるのか。「一件落着」の独り善がりのお膳立てでは、誰も食いつけない。