中学校の教科書/デジタル活用の質向上を(2024年3月28日『神戸新聞』-「社説」)

 2025年度から中学校で使われる教科書の検定結果が公表された。国が進める「GIGAスクール構想」で生徒1人に1台の学習端末が配備されたことを受け、教材のデジタル化が一層進んだ。

 紙の教科書に記載された2次元コード(QRコード)を学習端末で読み取り、オンライン上の教材にアクセスする。ネーティブの英語の音声をはじめ、理科の実験動画や、小説の作者のインタビュー映像などを見ることができる。

 生徒の興味や関心を引き、理解を助ける効果が期待できそうだ。インターネットやデジタル機器が身近にある環境で生まれ育った今の子どもにとって、こうした教材は親しみやすいだろう。


 教員たちには、教室内での生徒同士のやりとりなどと組み合わせて学びを充実させる活用法を磨いてほしい。各教育委員会は、研修などを通して学校現場をきめ細かくサポートする必要がある。

 中学校では、16年度に「主体的・対話的で深い学び」を掲げる現行の学習指導要領に改定された。19年度の前回の教科書検定と比べ、デジタル教材が急増し、今回合格したほぼ全ての教科書にQRコードが掲載されている。現場からの需要が高まっているのも一因という。

 ところが、デジタル教材は検定の対象外だ。教科書とは別の補助教材と位置づけられているため、検定では教科書会社から提出されたサンプルや接続先のサイト画面をチェックするにとどまる。

 生徒が直接アクセスするコンテンツであり、質を担保する仕組みが求められる。量が膨大で、内容が更新されるオンライン上の教材を、どのように点検するのか。デジタル化の流れは今後も加速する。文部科学省は議論を早急に始めてほしい。

 性の多様性や新しい家族の在り方に関する記述が大幅に増えた点も、今回の特徴である。

 多くの教科で、ズボンの制服を着る女子生徒のイラストが使われた。技術・家庭では男性2人の暮らしを描いた漫画や、同性カップルの育児を紹介する絵本が取り上げられた。社会の意識変化を踏まえた内容と言える。多様性の尊重について生徒が学び、考えを深められるような授業を期待したい。

 教科書の平均ページ数は現行版から0・2%増え、04年度以降で最多となった。教員の多忙化解消がなかなか進まず、各地で教員不足を招いている中、学習量のスリム化を検討課題に入れるべきだ。