巨人「築地」新スタジアム 世界標準の収益生むか、MLBはNPBの8倍売り上げ 小林至(2024年5月4日『週刊フジ』)

キャプチャ
新ホーム球場と噂される築地市場跡地に建設予定のマルチスタジアムの野球使用時イメージ(「ONE PARK×ONE TOWN」提案資料より)
築地市場跡地(東京都中央区)の再開発事業は、約5万人を収容可能なマルチスタジアムを中心に商業施設、ホテル、オフィスなどが含まれるという。事業予定者に選ばれた三井不動産を中心とした読売新聞グループ本社など11社による企業連合による構想では、そのスタジアムが巨人の新本拠地になるかは明言されていないが、もしそうなれば、日本のスポーツビジネスを世界標準に押し上げる起爆剤になる可能性を期待できる。
日本プロ野球(NPB)の収益力は、過去30年間にわたる「失われた時代」とも呼ばれる停滞期を経ても健闘しているが、世界のメジャースポーツと比べるとその差は拡がる一方だ。1980年代のNPBの総売上は900億円、MLBは1400億円だった。しかし現在、MLBは約1兆6000億円を記録しており、NPBは2000億円に達するかどうかという状況だ。
このような差異が生じたのは、リーグやチームが拠点を置く国の経済成長だけではなく、ビジネス力の強化ができたかどうかでもある。そのひとつが、スタジアムの収益力である。
MLBのスタジアムでは多種多様なアメニティーが提供されている。大人はどこからでもフィールドが望めるコンコースのバースタンドでの会話や飲食に興じ、子供は走り回ったり射的やゲーム機器で遊んだり、むろん野球に集中したいヒトは客席に座って見ればいい。ボールパークといわれるゆえんである。日本でも広島のマツダスタジアム日本ハムエスコンフィールドなどでボールパーク化が進み、観客体験は大きく向上している。
しかし、東京ドームのような伝統あるスタジアムは、設備の老朽化と厳しい規制の壁により収益力を向上させるための大規模な改修が困難になっている。たとえば、観戦体験の向上に不可欠な回遊型のコンコースや、スイートルームとプレミアムシートの充実は、いずれも既存のスタジアムの改修では実現不可能だ。新たなスタジアムの建設はこれらの問題を解消し、日本のプロスポーツの市場競争力を高めるチャンスを提供するだろう。
巨人と同様、国内最大の商圏に本拠地を構えるニューヨーク・ヤンキースは、2009年に新球場に居を移した。収容人数は5万7500席から5万3000席に減じ、年間の観客動員も430万人から372万人に減ったが、入場料収入は75%増えた。コンコースを回遊型にし、56のスイートルームと4300のプレミアムシートを新設したことで、客単価が大幅増になったからである。ヤンキースの2023年のチケット売上は517億円、平均客単価は1万6000円だ。
キャプチャ2
巨人の本拠地が東京ドームになってから阿部監督が就任した今季で37年目
東京ドームの巨人戦の現在の平均客単価は、公表数字はないが、恐らく5000円弱くらいだろう。世界屈指のメガロポリス東京を本拠地とし、日本で最も有名なプロスポーツ球団であれば1万円はあっていい。築地新スタジアムの誕生が、日本のスポーツビジネスにとって「安いニッポン」から脱却し、国際標準への躍進を象徴する節目となることを期待している。(桜美林大教授・小林至)