中学校の教科書検定 知の探求は止められない(2024年3月24日『茨城新聞』-「論説」)

 2025年度から中学校で使われる教科書の検定結果が公表された。現行の学習指導要領に基づく2回目の検定で記述内容に大幅な変更は見られなかったものの、紙面に掲載された2次元コード(QRコード)の多さが目を引いた。

 1人に1台行き渡っているタブレット端末などを使って生徒が読み取ると、教科書に関連した記述や英語の音声、動画などにつながる仕組みになっている。初登場した前回の数十倍に扱いを増やしたものや、1冊に100カ所以上掲載したものもあり、教科書会社の力の入れようが分かる。

 生徒の利便性向上に加え、デジタル対応をアピールした方が、採択時に有利になるとの思惑があるためだ。半面、デジタル教材は各社が自前で用意しなければならない。関係者からは「これが採択に直結すれば今後は体力のない会社は生き残れない」との声も上がっており、教科書作りは大きな岐路を迎えている。

 QRコードが教科書に掲載されるようになったのは20年度以降に実施された学習指導要領に「情報活用能力の育成を図る」との文言が盛り込まれたのがきっかけだ。

 教科書検定基準は「教科書記述と密接な関連を有するもの」と定めており、文部科学省は「本文との関連性において必要な部分は検定対象になる」と説明している。

 一方で「リンク先の情報や動画などについて一言一句まで細かくは見ていない。全てを検定対象にはできない」と一線も引いている。分量があまりに膨大なため、教科書会社から提出された要約資料を見て内容の妥当性を判断しているという。

 検定はあくまで紙の教科書を対象とする。デジタル教材の内容は、これまでの副教材と同様に教科書会社に責任がある。それが文科省の見解だ。

 こうしたグレーゾーンが顕在化すると「デジタルコンテンツも含めて国はきちんと検定をすべきだ」との意見が出る恐れがあるが、教科書以外に文科省が口を出すのは越権行為であり、抑制的な姿勢で臨むのは当然だ。

 とはいえ、検定制度ができた当時は想定していなかった事態に遭遇しているのも事実だろう。

 子どもたちは日常的にインターネットに接するようになり、スマートフォンなどを使って検索もしている。情報を入手する媒体の「主従」の垣根は低くなり、場合によっては逆転している。

 知の探求を教科書の枠内に押しとどめることはできない。学習指導要領では触れていない知識に接し、教科の内容に興味を持つこともあるだろう。そうした相互乗り入れが当たり前の時代に子どもたちは生きている。

 新しい情報や知識には間違いが付きものだ。誤りはただす必要があるが、正しさを求めるあまり、教科書以外の媒体を遠ざけてはならないし、管理すべきでもない。

 「学ぶべき最低基準」であるはずの学習指導要領は肥大化を続けている。その内容を忠実に反映して作られる教科書の総ページ数は、今回も高止まりしたままだ。子どもたちの負担は増し、学校は過密な時間割を組まなければ学習内容をこなせなくなっている。

 教科書が主たる教材であることに変わりはないが、学びの形は変化している。デジタル教材の隆盛は、学習指導要領の在り方にも問いを投げかけている。