ことしの本屋大賞 宮島未奈さん「成瀬は天下を取りにいく」(2024年4月10『NHKニュース』)

全国の書店員が「いちばん売りたい本」を投票で選ぶことしの「本屋大賞」に、宮島未奈さんのデビュー小説で、女子中学生が主人公の「成瀬は天下を取りにいく」が選ばれました。

 

本屋大賞 映画やドラマに影響力大きい賞として注目

ことしで21回目となる「本屋大賞」は、全国の書店員が「いちばん売りたい本」を投票によって選ぶ賞で、過去に受賞した作品の多くがベストセラーとなり、映画やテレビドラマにもなるなど影響力の大きい賞として注目されています。

「成瀬は天下を取りにいく」どんな作品? 

10日、ことしの授賞式が都内で開かれ、ノミネートされた10作品の中から、宮島未奈さんの小説、「成瀬は天下を取りにいく」が選ばれました。

この作品は、主人公の女子中学生、成瀬あかりが、閉店を控える地元の百貨店に毎日通ってテレビ局の中継に映ろうとしたり、漫才の日本一を競う大会に挑戦したりするなど合わせて6つの短編からなる青春小説です。

大津市が舞台となっていて、幼なじみを巻き込みながらわが道を突き進む成瀬の姿がユーモラスに描かれています。

作者の宮島未奈さん「コロナ禍に小説家人生がスタート」 

作者の宮島さんは静岡県富士市出身の40歳。京都大学を卒業後、地元の静岡で就職し、結婚を機に大津市に移り住みました。

30代半ばから小説の新人賞などに応募を始め、3年前、今回の受賞作にも含まれている短編が文学賞を受賞し、去年3月に「成瀬は天下を取りにいく」が書籍化されてデビューしました。

作品はこれまでに41万部を超えるヒットとなり、ことし1月には大学生になった成瀬の活躍などを描いた続編も刊行されています。

宮島さんは、作中で成瀬が結成するお笑いコンビにちなんだユニフォームを着て登壇し、喜びを語りました。

宮島未奈さん
本屋大賞をきっかけに、ますます多くの皆さんに成瀬と出会っていただくのが楽しみですし、受賞作家の看板を背負っていくと思うと身が引き締まる思いです。コロナ禍に小説家人生がスタートした私がこうして多くの皆さんにお祝いしていただけるのは感無量で、このようなことになるとは想像していませんでした。これからの1年間も今の私には想像できないことがたくさん起こると思いますが、成瀬と一緒ならきっと大丈夫です。ありがとうございました」

主人公「成瀬あかり」の自宅最寄り駅では 

小説の主人公、「成瀬あかり」の自宅の最寄り駅として小説に登場する大津市のJR膳所駅には、4月1日からびわ湖大津観光協会がPR看板を設置しています。

看板には「成瀬あかり」やびわ湖を巡る観光船「ミシガン」のイラストとともに、小説に登場する「膳所から世界へ」というセリフをもじった「世界から膳所へ」という観光客を呼び込むことばが書かれています。

10日は「本屋大賞」発表の1時間ほど前から観光協会の職員や地元のファン数人が駅に集まり、受賞の知らせが入ると歓声をあげて喜んでいました。

そして、関係者が「祝本屋大賞受賞」と書かれた花飾りの装飾を看板に取りつけました。

30代の女性ファンは「うれしいです。小説で地元の住民が誇りを持てるような魅力を取り上げてもらい、希望の光をもらえました」と話していました。

びわ湖大津観光協会では、小説の舞台を巡る催しを企画するなどして、大津市の観光振興にもつなげたいとしています。

観光協会の坪田朋也さんは「たくさんの人に小説を読んでもらい、実際に大津を訪れて小説の世界観を楽しんでほしい」と話していました。

小説の舞台となった書店では

小説の舞台の一つ「西武大津店」の跡地近くの商業施設に入る書店では、「成瀬は天下を取りにいく」が出版された去年3月から特設コーナーを設けています。

10日は午後2時すぎに受賞が発表されると、さっそく店員が「本屋大賞受賞」の帯がまかれた本を並べていました。


この書店によりますと「成瀬は天下を取りにいく」はことし1月までに小説としては異例の売れ行きとなるおよそ1000冊が売れています。

今回の受賞によって買い求める人が増えることを見込んで、新たに600冊あまりを入荷したということです。

また、宮島さんを招きサイン会を開いたこともあり、店内には宮島さんのサインが入った主人公のパネルや「西武大津店閉店のショックから立ち直れていない皆さん!私もです!」と書かれた直筆の色紙が飾られています。

書店員 八原敦子さん

「地元の書店としてずっと作品を応援してきたのでうれしいです。宮島さんはユーモアのある方で、サイン会では一部の本に『当たり』と書き込んでいました。滋賀県への愛にあふれる主人公が登場するので、ぜひ多くの人に読んでほしいです」

大津市は大盛り上がり

作品の舞台となった大津市では、すでに大きな盛り上がりをみせています。

滋賀県などは今月から、大津市内の店や駅など作品にゆかりのスポットを巡るとデジタル地域通貨の「ビワコ」がたまるデジタルスタンプラリーを始めました。

13か所すべてをまわると、記念のクリアファイルがもらえます。

参加した親子連れは「作品の中に地元のことがたくさん出ていて、まちを歩くと主人公の成瀬がいそうな感じがしてきました」と話していました。

また、受賞作の続編で成瀬のアルバイト先のモデルとなった店では、お客様の声ならぬ、「読者の声」として本の感想などを店内に掲示する取り組みを行っています。

平和堂営業企画部の橘淳子さんは「成瀬が大津や滋賀を盛り上げてくれることを期待しています」と話していました。

デビュー作での本屋大賞は3人目

デビュー作での本屋大賞は、これまでに、2009年の湊かなえさんの「告白」、おととしの逢坂冬馬さんの「同志少女よ、敵を撃て」が受賞していて、宮島さんは3人目です。