減少する街の書店、どう救う? 経産省が専門チーム発足 フランスでは「反アマゾン法」も… 23日は本を贈り合う日(2024年4月23日『東京新聞』)

4月23日は、親しい人に本を贈る「サン・ジョルディの日」とされています。
ただ、ネット通販や電子書籍の普及などにより、全国で街の本屋さんは次々と姿を消しています。
同じ悩みを抱えるフランスでは、ネット書店の送料無料を規制する「反アマゾン法」が導入されています。日本でも、経済産業省が苦境にある本屋さんを救おうと、プロジェクトチームを発足しました。
街の本屋さんをいかにして救うか。経産省の狙いや書店の実情を取材しました。(デジタル編集部)
◆斎藤経産相が書店経営者と議論
17日、斎藤健経産相は、東京都港区の書店を訪れ、書店経営者ら6人と意見交換した。書店プロジェクトチームの取り組みの一環だ。
意見交換で、斎藤経産相はこう語った。
「やはりウェブと図書館と本屋、この3つが持ち味を生かしながら共存する、これがあるべき姿ではないかなと思っている」「この3つの中で、どうも本屋さんは割を食っているケースが多い」
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車座対話後に書店を視察する斎藤経産相=東京都港区で(代表撮影)
◆書店数は減っている
実際に、この10年で全国から4600余りの書店が姿を消している。
日本出版インフラセンターによると、2024年3月時点の全国の書店数は1万918店で10年前の1万5602店から約3分の2になったという。
書店ゼロの街も増えている。出版文化産業振興財団(JPIC)の調査によれば、24年3月時点で、全国の「書店ゼロ」の市町村は27.7%に上る。
◆「文化創造の基盤」
経産省は今年3月、書店を支援しようとプロジェクトチームを発足した。
斎藤経産相は、3月の定例会見で、「創造性が育まれる文化創造基盤として重要だ。街中にある書店は、多様なコンテンツに触れることができる場として、地域に親しまれている」「書店に出かけることによって、新しい発見があって、視野も広がる。まさに日本人の教養を高める、一つの基盤だと思っている」と、書店の存在意義について力説してみせた。
その上で、「リアルなコンテンツとして非常に重要なものが日本列島上からどんどんなくなっていくと、いかがなものかという思いがもともとあった」と、プロジェクトチームをつくった理由を明かした。
経産省の担当者も「子供からお年寄りまで様々な地域コミュニティの方が気軽にコンテンツに入れることができる場所。書店の機能は、将来の文化産業を考える上でもすごく重要」と話す。
◆議連「不公平な競争にさらされている」
自民党内には、書店振興を考える「街の本屋さんを元気にして、日本の文化を守る議員連盟」(書店議連)という議連があり、これまでも書店支援を訴えてきた。
書店議連は2023年春に提言書をとりまとめて、政府に要望していた。斎藤経産相は書店議連の幹事長でもある。
議連の提言書は、「ネット書店による送料無料化や過剰なポイント付与という実質値引き等により、書店は不公正な競争環境にさらされている」と指摘。書店減少の背景に、ネット通販の影響を挙げていた。
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書店議連の会合であいさつする斎藤経産相=東京都千代田区
◆書籍のネット販売5年で1.4倍
実際、書籍のネット通販は近年、広がっている。
日販ストアソリューション課「出版物販売額の実態 2023」によると、インターネット上の書店を経由した出版物販売額は22年度に2827億円で17年度の1987億円から約1.4倍に増えた。
一方で、書店の販売額は2022年度に8517億円。17年度の1兆249万円から8割程度に減っている。
日本書店商業組合連合会が2015年に実施し、1193の書店から回答を得た調査では、経営状態が「非常に悪くなった」との回答が31.2%。「悪くなった」(36.1%)、「やや悪くなった」(17.9%)と合わせると、85.2%を占めていた。
経営悪化の原因について、複数回答で「客数・客単価の減少」(67.5%)、「雑誌の低迷」(56.8%)、に続いて、ネット書店(35.7%)を挙げる声が多かった。「アマゾンに太刀打ちできない」「アマゾンに規制をかける運動に取り組んでもらいたい」という意見も寄せられた。
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◆フランスは「反アマゾン法」で規制
ネットの書籍販売による影響は、日本だけに限ったことではない。
フランスでは「書店がなくなるということは文化の危機だ」として、すでにネットの書籍販売の規制に乗り出している。
文化の保護を目的に、フランスは2014年、書籍のネット通販について送料無料のサービスを禁じる法律をつくった。フランスで書籍のネット通販の大半が、米ネット販売大手「アマゾン」だったことから「反アマゾン法」と呼ばれている。
当時のフランス文化・通信相は、反アマゾン法の意義について「わが国が持つ本に対する深い愛着を示した」と語っている。
反アマゾン法について調査したことのある京都大の曽我部真裕教授(憲法・情報法)によると、法施行前に、フランスで2つの大手書店が相次いで破綻。ネットの書籍販売が送料無料サービスを提供していることで、他の書店との間で競争条件の不平等を引き起こしているとの非難が高まっていたという。
◆「反アマゾン法」日本では?
書店議連は、提言書の中でフランスの「反アマゾン法」の検討も呼び掛けている。
その斎藤経産相は、3月の会見で、反アマゾン法を含めた海外の事例について「研究する価値はある」と前向きな姿勢を見せていた。
公正取引委員会も、書店議連の提言を受け、ネット書店による送料無料について、書店や出版業界にヒアリングを始めている。今後はネット書店の事業者にもヒアリングを行い、実態把握に努めるという。
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車座対話後に書店を視察する斎藤経産相=東京都港区で(代表撮影)
ただし、曽我部教授によると、フランスでも反アマゾン法の効果は不透明だという。
フランスでは反アマゾン法ができると、ネット書店側は送料を0.01ユーロ(約1.5円)と無料すれすれの金額に設定した。そのため、フランスはさらに規制を強化。23年10月からは購入額が35ユーロ(約5700円)未満の場合、少なくとも送料が3ユーロ(500円弱)かかるようになったという。
曽我部教授は「ネット書店の送料無料規制により、既存の書店の売り上げが戻るかは不確かだ。あまり有効でないにも係わらず規制すれば、多様な書籍にアクセスする権利から、不利益を受けるのは消費者だ」と話している。
◆書店の期待は…
書店はプロジェクトチーム設置をどう受け止めているのか。
東京都調布市の「真光書店」(改装中)社長で、都書店商業組合理事長の矢幡秀治さんは「本屋がなくなっていく現状に目を向けて、わざわざチームを作ってくれたことは非常に歓迎しています」と話す。
真光書店は、漫画家・水木しげるさんも通った町の書店として地元に親しまれてきたが、売り上げ減少を受け、改装終了後に店舗面積を縮小する予定。矢幡社長は「本が定価でも送料が無料なら、実質値引きしているように捉えられてしまう。ネット書店が売り上げに影響しているのは間違いない」と話す。ネットで情報が手に入るようになったことで、雑誌などが売れなくなった影響も指摘する。
矢幡社長は「経産省には、しっかり現状を把握していただきたい。その結果として、行動に移してもらいたい」と訴える。
サン・ジョルディの日 スペイン・カタルーニャ地方の守護聖人としてたたえられる、サン・ジョルディが殉教した日。同州の伝統で、男性から女性に「赤いバラ」を、女性から男性に「本」を贈るのが一般的だが、親子や友人同士でも贈り合う。サン・ジョルディは魔物にとらえられた王女を救い出したとされる騎士。魔物を打ち倒した時、その血が地面に流れ落ち、真っ赤なバラが咲いたという話から、愛の証しとしてバラを贈る習慣が生まれた。後に、スペインの文豪セルバンテスの命日が同じ4月23日であることから、花と本を贈り合う習慣が根付いた。