官民挙げて物流の24年問題の克服を(2024年3月21日『日本経済新聞』-「社説」)

 
JR貨物ターミナル駅大阪市)に到着したネスレ日本のコンテナ
 

 4月1日からトラック運転手に時間外労働の上限規制が適用される、いわゆる「物流の2024年問題」の到来が目前に迫った。人手不足が厳しいなかで労働規制の強化が重なるが、物流の縮小や途絶で日本経済や国民生活が混乱する事態があってはならない。

 物流に携わる官民は生産性向上や意識改革に取り組み、持続性の高い仕組みを整えてほしい。

 物流の効率化には複数の手立てがあり、それを同時並行で進める必要がある。柱の一つはトラックから貨物鉄道やフェリーに切り替えるいわゆるモーダルシフトだ。大量の物資を少人数で運べるので、生産性が大幅に向上するほかカーボンゼロにも寄与する。

 例えばネスレ日本は今年2月に静岡県島田市の工場から関西方面へのボトルコーヒーの出荷をトラックからJR貨物に切り替えた。鉄道貨物はこれまで500キロメートルを超える長距離輸送が中心だったが、今後は静岡―大阪のような300キロ程度の中距離区間でもモーダルシフトが進みそうだ。

 複数の荷主の共同輸送も威力を発揮する。サッポロビール日清食品は近接した互いの工場から重いビールとかさばる即席麺を1台のトラックに混載する取り組みを始めた。トラックの荷台に隙間なく積み込めるので、必要な車両数が2割減ったという。

 政府の役割も大きい。貨物輸送には「発荷主」と「着荷主」がいるが、運送会社と契約し、運賃を負担するのは通常、発荷主だ。

 そのため荷物を受け取る着荷主は輸送の効率化に無頓着で、トラックが拠点に着いてから実際に荷降ろしするまで長時間、待たせることもよくある。

 国土交通省はこうした非効率を是正するために、一定規模以上の荷主企業には運転手の待機時間の短縮など物流の効率化計画の策定を義務づける方針だ。

 個人向けの宅配便でも再配達を減らすため、玄関先などでの「置き配」で済ませる人にポイントを付与する制度も導入する。

 いずれも荷物を受け取る側の意識改革や行動変容を促す仕掛けで、効果を期待したい。

 関係者の間では「4月早々の混乱は避けられたとしても、年末の繁忙期にかけ物流現場の混乱が心配」という声が多い。来年以降も人手不足は進行する。官民挙げての取り組みで物流の生産性を息長く高める必要がある。