成年後見制度 安心して利用できる仕組みに(2024年4月10日『読売新聞』-「社説」)

 認知症のお年寄りが増え、財産管理や生活を支援する制度の重要性が高まっている。使い勝手が悪いと指摘される仕組みを改め、安心して利用できるようにすべきだ。

 法制審議会の部会が、成年後見制度の見直しに向けた議論を始めた。この制度は、認知症や知的障害など判断能力が不十分な人に代わり、家庭裁判所が選んだ後見人が、預貯金の管理や不動産の処分、各種の契約などを行うものだ。

 介護保険制度と共に2000年に導入され、高齢化社会を支える両輪になると期待された。しかし、認知症患者が推計600万人まで増えたのに、利用者は約25万人にとどまっている。

 社会の高齢化は今後も進み、認知症の患者はさらに増えるとみられる。利用の拡大に向け、制度の見直しを急がねばならない。

 利用者が伸び悩んでいる背景には、制度の使いづらさがある。

 現在は、後見人が生涯にわたって担当する前提のため、不動産の処分などが終わっても、本人が亡くなるまでは後見人を解任できず、途中での交代も難しい。

 後見人は弁護士や司法書士らが選ばれることが多く、月数万円の報酬を支払い続けることになる。弁護士や司法書士は金銭管理には適しているとしても、本人の生活状況を見定めてサポートするには不向きな面もあるだろう。

 法制審では、後見人が不要になれば、利用を終わらせることができるように仕組みを変更することなどが議論される見通しだ。

 認知症患者は、年齢や生活環境に応じて症状が変化する。手厚い介護が必要な局面では、福祉関係者を後見人にできるようにするなど、柔軟な制度が望ましい。

 後見人のなり手不足も課題だ。親族がいなかったり、遠方に住んでいたりして、支援を受けられないお年寄りも多い。こうした状況の改善には、「市民後見人」制度を活用することも必要だろう。

 研修を積んだ市民が自治体に登録され、家裁が後見人に選ぶ。近所の人が後見人になれば、生活費を渡す際に、雑談の中で生活ぶりを確認するなど、寄り添った対応も可能になるのではないか。

 ただ、裁判所が市民後見人を選ぶケースは、全体の1%に満たない。弁護士ら専門職や親族の選任を優先する傾向が強いためだとされる。自治体が主導して、市民後見人の信頼度を高めてほしい。

 後見人による財産の着服事件も起きている。悪質な後見人をいかに排除するかも大事な問題だ。