欧州連合(EU)で人工知能(AI)を包括的に規制する「AI法」が2026年に全面適用される見通しになった。立法機関である欧州議会が法案を賛成多数で可決した。
域内人口が4億人を上回るEUはプライバシー保護規制などで世界に先行し、各地の法整備や企業活動に影響を及ぼしてきた。AI法の影響を注視し、日本でも安全と利用促進の両立に向けてルールの整備を急ぎたい。
AI法はAIのリスクを「容認できない」から「最小限」の4段階に分け、段階ごとに義務を課す内容だ。企業が採用活動に使うことなどを制限し、違反者に制裁金を科す。欧州で活動する外国企業も対象で、日本勢も対応が必要になる。
AIで生成した画像や音声に「AI製」などと明示することも義務付けた。こうしたルールは米国でも導入の検討が進んでいる。本物にそっくりな「ディープフェイク」が社会を混乱させる懸念が強まっており、日本も実効性のある対策を急ぐべきだ。
一方で、利用を促進し、産業の発展につなげるという視点が欠かせない。特に日本企業は生成AIなどの新しい技術の利用に慎重な傾向が強く、過剰規制で企業を萎縮させてはならない。
欧州では生成AIが急速に発達したことを受け、AI法に反映させた経緯がある。ただ誰でも自由に利用や改変ができる「オープンソース」と呼ぶ方式で開発した生成AIに対しては、規制を緩くすることで加盟国が合意した。
フランスなどにオープンソースで生成AIを開発する新興企業が立地しており、そうした国の主張を受け入れた格好だ。オープンソースの振興により一部企業が技術を囲い込む事態を避けられるといった主張がある一方、安全確保が課題との声も出ている。日本でも活用に向けて議論を深めたい。
日本では政府がAIに関わる企業を対象とした「AI事業者ガイドライン」の策定を進める。自民党は生成AIに対象を絞った基本法の素案を2月に公表した。
AIの開発に大量の資金が流れ込み、技術進化のスピードは増している。影響を及ぼす範囲が広く、従来型の規制だけでは十分に対応できないとの見方も根強い。先行した欧州などの事例を参考にしながら、機敏で柔軟な対応をとることが必要になる。