【成年後見制度】利用しやすく見直しを(2024年3月31日『高知新聞』-「社説」)

成年後見人とは?利用するメリットは?|ALSOK


 せっかくの安全網も、使い勝手が良くなければその恩恵は広く行き渡らない。利用が伸び悩む現状が、制度の問題点を提起していよう。高齢化が進むにつれ、潜在的なニーズは高まっているはずだ。必要に応じて利用しやすい環境づくりが求められる。
 認知症や知的障害などがある人を支援する成年後見制度の利用促進に向けて、小泉龍司法相は法制審議会に制度見直しを諮問した。2026年度にかけ、民法など関係法令の改正を議論する。
 成年後見制度は、本人に代わって弁護士や親族らが不動産や預貯金などの財産を管理したり、必要な福祉サービスや医療の手続きを行ったりする。判断能力に自信がなくなる事態は誰にでも起こり得る。悪徳商法や詐欺被害の防止を含め、生活の安全を守る上で重要な役割を担う。
 ただ、00年に始まった制度が社会に浸透したとはいいがたい。22年10月時点で65歳以上は約3600万人。このうち認知症の人も数百万人に上るとみられるが、成年後見の利用者は21年末で約24万人にとどまっている。
 後見人が利用者の財産を使い込むといった事件が相次いだこともあるが、属人的な問題ばかりではあるまい。制度設計が利用者の生活実態とかけ離れた側面も、以前から指摘されてきた。
 現行制度では、いったん利用を始めると必要がなくなっても事実上、亡くなるまで利用をやめることはできない。後見人が弁護士などの専門職だった場合にはこの間も報酬が必要で、経済的な負担が続く。さらに利用者の支援に意欲が乏しい後見人だったとしても、途中での変更は難しい。
 後見人には財産管理などで強い代理権が認められているため、当事者の意思が尊重されていないとトラブルになることも少なくないようだ。後見人が反対して、利用者が望んでいた家族旅行に行けなかったケースもあったという。
 あまりに制度の運用が硬直していないか。負担と制約が大きいとなれば、当事者の家族らが利用をためらうのも当然だろう。ニーズに沿った視点が欠かせない。
 法制審では、これらの改善策が議論される見通しだ。
 一定の期間や、遺産相続などの節目を終えた時点で利用を終了できる仕組みのほか、当事者の生活実態に応じて後見人を弁護士から福祉関係者に引き継ぐといった運用の在り方を探る。利用者の判断能力によって、代理権を制限するかどうかも論点に挙がる。当然の方向性ではないか。
 一方で、後見人のなり手不足も課題になっている。報酬があっても少額のため、手を挙げる弁護士や司法書士などの専門職は少ない現状がある。制度の見直しと並行して、制度に関する一定の知識を身に付けた「市民後見人」の育成も必要だろう。より身近な制度とするには課題が山積している。