◆「男女平等」の取り組みは2000年ごろに本格化
儒教的思想の影響が強い韓国では、長く男性優位の社会が続いた。公務員採用で男女比の均衡を義務付けるなど、男女平等に向けた取り組みが本格化したのは2000年前後だ。
さらに、有力政治家の女性への性加害事件などを経て18年の「#Me Too」運動がうねりとなり、ジェンダー平等への意識が高まった。
とはいえ国会議員の女性割合はまだ19%。日本(16%)と同様に低い。さらに最近は、男性側が「逆差別」を主張し、女性の権利を否定する動きが強まる。
「女性の名前でオンラインコミュニティーに登録したとたん、男性器の写真が送られてきたり売春を持ちかけられたりした」。男性と共にフェミニズムを考える市民団体のメンバー金年雄(キムヨンウン)さん(28)は、根強い女性蔑視を実感した最近の体験を振り返った。
過激なサイトでは「キムチ女(男の金でぜいたくするのを当然と考える女)」「韓男虫(ハンナムチュン=韓国の男は虫けら)」など、男女が互いを罵倒する表現も飛び交う。
◆女性「まだ不十分」男性「地位が低下した」 双方に不満
「過去より地位が向上したものの依然として不十分と考える女性側と、相対的に地位が低下したと受け止める男性側の双方が不満を高めている」と現状を分析するのは、淑明(スクミョン)女子大の洪誠秀(ホンソンス)教授だ。
特にフェミニズムを敵視する若い男性は「経済成長が止まり少子高齢化が進む中、就職や将来設計の不安の原因を女性重視の風潮に求めている」と指摘。誤った認識の解消に向け、政治家が未来の展望を示す必要があると訴える。
◆二大政党の公約は「あいまい」…
だが、総選挙で二大政党が掲げる公約は曖昧だ。保守系与党「国民の力」は、人口問題を担う部署を新設し「性別葛藤の緩和につなげる」と記述するのみ。革新系の最大野党「共に民主党」も「性平等担当部署の推進体制強化」「性平等民主主義の実現」など抽象的な表現にとどまる。
ソウル市内で5日、ジェンダー対立について語る金年雄さん(左)と李ハンさん
かつては「国民の力」代表が女性クオータ制(人数割当制)撤廃や女性家族省の廃止を主張し、対立をあおるような動きもあった。金さんは「両極化が激しい韓国政治では多様性が尊重されにくくなっている」と考える。
「二大政党には失望しかない」。金さんらとともに中高生や軍人のジェンダー教育に携わる李(イ)ハンさん(32)はため息をつく。ただ教育の現場では少しずつではあるが確実に、若者の意識の変化も感じるという。「分断を軽視したり利用したりする政治はいずれ滅びる」と期待を込めた。