◆収入は監査の対象外、支出も外形的な確認
この会計士は企業を中心に20年以上の監査経験があるベテランだ。「登録政治資金監査人」として政治団体のチェックを始める際、総務省の研修に衝撃を受けた。政治資金監査では、「政治資金収支報告書や団体の会計帳簿の数字が、妥当か評価しなくてよい」というような説明が、研修資料の監査マニュアルの冒頭に記載されていた。
「登録政治資金監査人」の仕事について話す会計士=東京都千代田区で
問題となった裏金のように、政治団体の収入はそもそも監査できない。支出はすべて点検するが、「領収書と照合し、数字が合っているかの『外形的・定型的』な確認だけでよい」というのが実態だ。
◆追及もできず、企業監査と大違い
会計士はかつて、取引先からの利益供与が疑われる支出を発見し、議員に直接ただしたことがある。適正な支出だったことは確認したが、「マニュアルに従えば、怪しい支出を発見しても、国会議員らに詳細な追及はできない」というのが本音。会計士が直接、取引先や銀行口座を調べることが可能な企業監査とは大違いだ。
規正法には「政治資金が国民の浄財であることにかんがみ、収支の状況を明らかにする」とあるが、マニュアルには「政治活動の自由の尊重」が明記されている。自由ばかりに重きが置かれ、監査の対象や仕組みは形骸化された。
会計士は、今の仕組みを「ザルだ」ときっぱり。「企業監査並みに制度を抜本的に改正しなければ、再び不正は起きる」。こう力を込めた。
政治資金の監査 事務所費の架空計上問題などを受け、2007年に政治資金規正法を改正し、研修を受けた公認会計士や弁護士、税理士ら「登録政治資金監査人」による政治資金団体などの監査が義務付けられた。総務省によると2024年1月末現在で、5150人が登録。税理士が最も多く74.5%、会計士19.0%、弁護士6.5%。
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◆自民は「派閥資金の外部監査」…ザルのままでは
ある与党の関係者は「収入と支出の数字が合わない国会議員は多いだろう」と明かす。今の制度では収入は対象外で、支出も形式的な確認のみだ。監査とは名ばかりで、ガラス張りの金の流れにはなっていない。
◆規正法改正でも透明性向上の動きなし
「登録政治資金監査人」の仕事について話す会計士=東京都千代田区で
元衆院議員で登録政治資金監査人でもある桜内文城氏は政治活動の自由に理解を示しながらも、政治資金に税金が投入されている点から説明責任を強調する。「政治資金にお墨付きをもらうことで国民の信頼を回復し、政治活動の後押しとなる」というのだ。