ハンセン病調査 啓発不足 国の責任は重い(2024年4月8日『熊本日日新聞』-「社説」)

 ハンセン病元患者と家族への差別、偏見を根絶できない現状を直視しなければならない。国は啓発と教育の進め方を検証し、実効性を高める責任がある。

 厚生労働省が、初めて実施したハンセン病問題に関する全国意識調査の結果を公表した。回答した約2万1千人のうち約9割がハンセン病を知っていたものの、▽早めに治療すれば後遺症なく治る▽感染力や致死性は弱い-などの特徴を正しく理解していたのはそれぞれ全体の5割に届かなかった。

 国は誤った強制隔離政策によって、長年にわたって過酷な人権侵害を続けた。その反省を踏まえ、社会全体でハンセン病の歴史に関心を寄せ、病像を正しく知ることが差別をなくす起点だろう。国民の多くが不正確な認識にとどまれば、強制隔離を重大な誤りと理解するのは難しく、偏見の解消にもつながるまい。

 調査結果は国の啓発不足を浮き彫りにした。偏見や差別意識が「あると思う」と答えた人は約4割もいる。元患者や家族の「身体に触れる」ことに対し18・5%、自分の家族との「結婚」に21・8%の人が、抵抗を感じると答えた。ごく一部とはいえず、調査報告書が「偏見差別は現存し、依然として深刻」と指摘した通りだ。

 さらに憂慮すべきは、授業などでハンセン病を学んだ人ほど元患者らに抵抗感を抱き、誤った考え方を支持する傾向がみられたことだ。現在の啓発内容では差別意識を十分に是正できていない。学校での教材や授業時間、市民向け啓発資料などの精査が必要だ。厚労省文部科学省などと連携し、質量ともに充実した取り組みに転換してほしい。

 ハンセン病問題の転換点は熊本地裁の二つの判決だった。2001年に旧らい予防法下で国が進めた強制隔離政策を違憲と断じ、19年には家族への差別被害に賠償を命じた。国は判決を受け入れ、加害責任を明確に認めた。

 今回の調査では、「知らない」「あまり知らない」との回答が、二つの判決とも70%を超えた。強制隔離政策自体の認知度も低い。国が判決の意義を広く発信できていないのは明らかだ。元患者や家族らに取り返しのつかない「人生被害」を負わせた歴史を猛省し、分かりやすく伝える努力を怠ってはならない。

 熊本県の回答者(288人)に限ると、地元での判決とあって認知度は6割ほどだった。その他の項目をみても、小中高校での学習機会、啓発活動に関わった経験が多いとの結果が出た。偏見差別の被害事例にも敏感で、元患者に対する抵抗感は低いという「県民像」がうかがえる。

 県内には国立ハンセン病療養所菊池恵楓園(合志市)があり、03年には南小国町のホテルで入所者の宿泊拒否事件が起きた。その後、県などが強化した啓発、教育は成果を挙げたとみたい。偏見差別をなくすのが容易でないからこそ、国は積極的かつ持続的な取り組みを全国に広げるべきだ。

 

産経新聞

 

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ハンセン病問題に係る全国的な意識調査報告を受けて


 厚生労働省が設置した検討会は、ハンセン病への差別や偏見の実態を把握するため、一般の人を対象に初めて全国的な意識調査を行いました。20916人の回答を有効回答として集計・分析された調査結果は「ハンセン病問題に係る全国的な意識調査報告書」にまとめられました。この4月3日(水)に解禁され、各マスメディアで大きく取り上げられています。
 報告書によると、2割近くの人が身体に触れることに抵抗を感じると答えたほか、元患者の家族と自分の家族が結婚することに抵抗を感じると答えた人も2割以上にのぼったとされます。「ハンセン病への偏見差別は現存し、依然として深刻な状況にあることがうかがえた」と結論づけられています。
 学校の授業などハンセン病問題の学習を受けた経験について質問したところ、「受けたことはない」が55.4%、「はっきりと覚えていない」が27.1%です。国の啓発活動を受けた経験では、厚労省作成のパンフレットが4.1%、法務省主催のシンポジウムが1.2%、国立資料館や療養所の資料館などの展示が4.8%にとどまり、「国の人権教育・啓発活動は市民にほとんど届いていない可能性がある」と指摘されています。
 クロス集計によると、学習や啓発活動を受けた人ほど、元患者や家族に抵抗感を抱いたり、ハンセン病問題に関する誤った考え方を支持したりする傾向にあるとされています。また、年代別で比較したところ、中年層と比べて若年層や高齢層で、元患者や家族に抵抗感を抱いたり、ハンセン病問題に関する誤った考え方を支持したりする傾向にあったとされます。
 報告書は「多面的な検証を早急に行う必要がある」と指摘しています。当国立ハンセン病資料館では、その事業についてPDCA評価方式を導入しているところですが、このような調査結果を真摯に受け止め、より実効性のある普及啓発活動に一層努めていきたいと存じております。宜しくお願い申し上げます。

国立ハンセン病資料館 館長 内田博文