拡大する特殊詐欺 撲滅へ新体制で中枢摘発を(2024年3月4日『河北新報』-「社説」)

 「おれおれ詐欺」と呼ばれ、登場してから20年余。特殊詐欺は根絶どころか、ますます多様・巧妙化し、被害が拡大する。警察当局は来月、47都道府県が一体となる新たな捜査体制を発足させる。これ以上、詐欺グループをのさばらせてはならない。民間や海外捜査機関との連携も深め、撲滅に全力を挙げてほしい。

 警察庁によると、2023年の特殊詐欺の認知件数(暫定値)は1万9033件と直近10年で最多となった。被害総額は441億2000万円。統計のある04年以降で件数、額ともに4番目に多い。

 毎日1億2000万円が詐取された計算だ。一方で摘発は7219件、2499人。交流サイト(SNS)などでつながり、「闇バイト」を募集する「匿名・流動型犯罪グループ」が犯行に及ぶ中、摘発の大半はいわば使い捨ての実行役で、首謀者など中枢メンバーは62人にとどまる。

 特殊詐欺の手口は20年から「還付金詐欺」「交際あっせん詐欺」など10種類に分類されている。23年に目立ったのが「架空料金請求詐欺」だ。前年比75・8%増の5136件。うちパソコン画面に「ウイルスを除去する」などと表示し、被害者から連絡させる手口が2140件に上った。

 被害金の受け取り形態別では電子マネーの増加率が高い。人気のアップル製品を購入でき、転売して現金化しやすい「アップルギフトカード」を狙う詐欺が増えている。

 宮城県の23年の被害総額は9億7478万円で、前年の約2倍だった。投資名目など「金融商品詐欺」の被害額が大きく、全体を押し上げた。

 全国の警察当局は「だまされたふり作戦」や「拠点急襲」の強化、法や組織の改正など各種対策を講じてきたが、現状は先述の通りだ。犯行グループが海外に拠点を移すグローバル化も進んでいる。

 危機感を強める警察庁は新年度、新体制の「特殊詐欺連合捜査班」を発足させ、都道府県の枠を越えた総力戦に乗り出す。事件が起きた地域の警察本部が一次的に権限を持つという捜査の原則「発生地主義」の転換だ。

 特殊詐欺は地方の高齢者をだまし、首都圏などのATMで現金を下ろすのが典型。都市部での捜査が必須だが、これまでは都市部の警察は依頼を受けても活動は初動捜査などに限られていた。

 新体制では東京や大阪、愛知、福岡など大都市圏の7都道府県に全国からの派遣も含め計500人の中核部隊を設置。全国の警察から嘱託を受け、初動にとどまらず、捜査全体に幅広く関与する。全国の他の警察本部にも連合捜査の担当部署を置き、同様に相互連携を強化する方針だ。

 高齢者らをだます特殊詐欺は、人として卑劣極まりない。撲滅には首謀者らの摘発が不可欠だ。体制を強化する新年度を、闘いの一里塚としなければならない。