ナシ花粉が不足 「自給力」強化へ支援を(2024年4月6日『東京新聞』-「社説」)

 

 中部各地のナシ畑に小さく白い花が咲き始めた。産地では甘く形の良い実を収穫するため、人工授粉が間もなく始まる。ただ、これまで広く使われてきた中国産花粉が昨年から輸入停止になり、花粉不足による生産への影響が懸念されている。産地で始まった自給体制強化に向けた動きを、国は力強く長期的に支援してほしい。

 ほとんどのナシは、自らの花粉では実がならない性質があり、他品種の花粉を手作業で雌しべにつける人工授粉が必要だ。花粉の採取は煩雑な作業で生産者の負担が大きく、近年は中国産への依存が強まっていた。農林水産省の推計では、全国の栽培面積の3割ほどで使われてきたとみられる。
 中国ではナシやリンゴなどのバラ科植物が細菌に感染し、火にあぶられたように枯れる「火傷(かしょう)病」が発生。花粉を介して国内に持ち込まれるのを防ごうと、農水省は2023年8月にナシとリンゴの中国産花粉の輸入を停止した。
 産地は対策に追われている。23年産ナシの出荷量が全国12位の愛知県では、JAあいち中央(安城市)が花粉採取用の花を産地内で融通し合う取り組みを開始。全量を中国産に頼っていた生産者が提供者の畑を訪れ、花を摘み取って今年必要な花粉を確保した=写真。花を提供した猪飼幸宏さん(50)は「今後は輸入に頼れない。自分で木を育て、花粉を取ることが求められる」と話す。
 出荷量6位の長野県では、栽培面積の17%で中国産花粉が使われていたとみられる。県は今年の人工授粉では大きな不足はないとみているが、自給強化を目指し、花粉採取用の苗木を県内の生産者に販売する取り組みを始めた。
 農水省はこうした動きを支援するほか、花粉の全国的な流通や中国以外からの輸入などで必要量確保を図る。輸入停止は長期化するとみられ、継続的支援が必要だ。
 話はナシ花粉に限らない。わが国は他の主要国に比しても食料や飼料、肥料の輸入依存度が格別に高い。病害のほか紛争や異常気象で供給が止まるリスクもある。食料安全保障の観点から国は「自給力」増強へ本腰を入れるべきだ。