蜜と塩(2024年4月2日『佐賀新聞』-「有明抄」)

 花愛(め)づる、いい季節になった。花から花へとミツバチたちもせわしなく飛び交っている。「あれが人間なら、50~60代の女性がスイカを2玉両脇に抱えて駆け回っているようなものです」。養蜂に携わる知人に教えられた。以来、羽音のぬしが身近な誰かに見えて仕方ない

◆働きバチに与えられる最初の仕事は、巣の中の掃除や幼虫の子守りなど「内勤」だという。やがて巣づくりに駆り出されたり、集まった蜜を管理したりと、責任ある仕事を任されていく

◆そんなキャリアを重ねて、最後に担うのが蜜を集める「外勤」である。外敵に狙われる危険も多い。仲間に蜜の場所を教えたり、蜜を採り終えた花に印をつけたり、チームワークも欠かせない。年かさや経験があって果たせる役割でもあるのだろう

◆きのう多くの職場で入社式や辞令交付式が行われた。初々しい顔ぶれに混じって、定年後の再雇用や新しい職場で第二の人生を歩み始めた人もいることだろう。人手不足に悩む社会で、豊かな経験を背負って飛び立つ「人生100年時代」である

◆甘い蜜を集めるハチと違い、人が得る給与「サラリー」は古代ローマ時代、兵士たちに与えられた「塩」に由来する。道理で仕事にしょっぱい思いはつきものである。〈サラリーの語源を塩と知りしより幾程かすがしく過ぎし日日はや〉島田修二(桑)