教科書の大改革(2024年4月2日『熊本日日新聞』-「新生面」)

 花盛りの春は変化の季節でもある。新学期が始まる小学校でも、大人の知らないところで大きな変化が起きているのをご存じだろうか。新年度から採用される改訂教科書が、数十年ぶりに大改革されている

▼といっても、教育の中身に関わる話とは違う。国語以外の教科書はほぼ横書きだが、これまで長い間、横書き文章の句読点には「,」と「。」が使われてきた。それが3年に1度の改訂に合わせ、多くの教科書が「、」「。」に改めたのである

▼横書きの「,」の起源は、戦後復興期の1951(昭和26)年。国の国語審議会が示した「公用文作成の要領」が、〈句読点は,横書きでは「,」および「。」を用いる〉と定めたことに始まる

▼公用文とは、法律の条文や各省庁が作成する公文書のこと。なるべく横書きで表記し、漢字とひらがなを使うことなどもルール化された。明治以来の公用文は縦書きやカタカナが普通だったからだ

▼ただし「,」のルールは文部科学省などでも次第に守られなくなり、むしろ民間の教科書会社の方が真面目に従っていたようだ。国は一昨年、公用文の表記を「、」にすると通達した。教科書もこれに倣いつつある。たかが「,」されど「、」まで70年

▼子どもが慣れ親しんだ表記が変わる影響は気になるが、ことばはいつだって変化するもの。「要領」には加えて〈特殊なことばを用いたり,かたくるしいことばを用いることをやめて〉ともある。公文書はこの点が変わらず肝心で、しかも守られないところだ。