大谷選手、賭博関与否定に関する社説・コラム(2024年3月28日『)

大谷選手、賭博関与否定 これで闇は晴れたのか?(2024年3月28日『茨城新聞』-「論説」)

 

 これで深い闇はすべて晴れたのか? 米大リーグ、ドジャース大谷翔平選手が、専属通訳だった水原一平氏の違法賭博問題で初めて報道陣に経緯を説明し、自らの賭けや胴元への送金などすべての関与を否定した。

 華やかな大リーグ開幕時に、不世出ともいわれる野球選手を直撃した賭博疑惑だ。通訳が引き起こした不祥事とはいえ、大谷選手が関係していれば刑事処分や大リーグ機構から出場停止を含む処分を受ける恐れもあった。今回の説明が事実だとすれば、同選手は犯罪の被害者であり、処分対象ではないことになる。ひとまずファンを安堵(あんど)させた、とは言える。

 常識では想定できない事象が次々と明らかになって、賭博疑惑は深い闇に沈んでいた。米国での報道などによると、水原氏が違法なスポーツ賭博に手を染め、日本円に換算して7億円近くの負債をつくった。その支払いが大谷選手の口座から送金された。

 水原氏の二重三重のうそが事態を複雑にした。借金の肩代わりを大谷選手に求め、同意を得て送金してもらった、などの当初説明はすべて虚偽だったという。大谷選手によると、弁護士を通じて水原氏の行為が「窃盗と詐欺」に当たるとして司法当局に捜査を委ねた。

 質疑応答のない一方的な大谷選手の説明は、真実味は感じられるものの、不明点がすべて明らかになったわけではない。

 水原氏が、大谷選手の口座に「勝手にアクセスして送金した」という説明では、なぜ第三者がセキュリティーチェックをクリアして送金できたか不明だ。口座からの巨額資金流出を知らなかった、という点も納得しにくい。

 水原氏は大谷選手と日本ハム時代からの同僚で、大リーグのエンゼルス移籍時に同時に渡米し専属通訳を務めてきた。ドジャース移籍でも行動を共にした。通訳以外にも送迎の運転手役、練習相手役なども行い、文字通り二人三脚でステップアップしてきた。

 親密な関係だっただけに、事件に大谷選手が「ショック以上」の衝撃を受けたことは理解できる。同選手は大リーグで最優秀選手(MVP)を2度受賞、本塁打王も獲得し、ドジャースに史上最高額とされる10年で総額7億ドル(約1千億円)の契約で移籍した。CM収入も年数十億円といわれ、ビジネス規模が大きい。

 スーパースターであるなら、リスク対応や会計管理に細心の注意を払うべきだった。信頼関係を基に通訳に頼るのではなく、テニスやゴルフのトップ選手のように個別の支援チームがあれば状況は違っていたかもしれない。事件発覚後、本人が沈黙を続けたことも混乱に輪をかけた。ファンに支えられるプロ選手には時宜を得た説明責任があろう。

 前人未到の投打二刀流での大活躍。巨額契約金での名門チームへの移籍。元バスケットボール選手との結婚。大谷選手は明るいニュースを次々と提供してきた。初めて直面したスキャンダルをどう乗り越えていくか。

 スポーツとギャンブルは日米を問わず歴史上に多くの汚点がある。今回の事件の速やかな全体像解明が必要だ。あらためてスポーツ選手には危機管理を求めたい。疑惑を完全払拭した上で、大谷選手にはこれまでと変わらぬ笑顔でファンを魅了するプレーを期待したい。

 

大谷選手元通訳と賭博 「依存症」のリスクも直視を(2024年3月28日『中国新聞』-「社説」)

 米大リーグ最高契約額の移籍に結婚発表。明るい話題に満ちていたスーパースターにとって思わぬ逆風だろう。

 ドジャースで開幕を迎えた大谷翔平選手の専属通訳としてエンゼルス時代からおなじみの水原一平氏が、違法賭博問題で解雇された波紋は、しばらく収まりそうにない。

 米司法当局が捜査に入った疑惑の構図はこうだ。水原氏がサッカーやバスケットボールなどを対象に違法なスポーツ賭博にはまり、日本円なら7億円近くの借金を胴元に負った上に、何と大谷選手の口座から支払っていたという。

 あぜんとする。プレーとは別のところで世界のメディアの目を引いてしまった大谷選手が、報道陣に説明する場を設けたのは当然のことだ。

 自分は賭け事にも送金にも一切関与せず、通訳の負債も口座から金が消えたことも知らなかった。それが本人の言い分である。送金に大谷選手が同意し、関わったなどとした水原氏の当初の説明は全くの虚偽だとして、「彼が口座から盗み、みんなにうそをついた」と断じた。その通りなら完全な被害者であり、水原氏がしたことは悪質な窃盗や詐欺に当たるだろう。

 この流れなら違法行為に厳しい大リーグ機構の処分も免れ、試合に出場できる。安心したファンは多いはずだ。

 疑問は残る。他人が勝手に口座にアクセスし、送金できるのかという点だ。単なる通訳というより家族同然の個人秘書の役割をしていれば、金融機関の個人情報をシェアできた可能性もあるが、質疑応答なしの今回の取材対応では詳細な説明はなかった。

 社会人として金銭管理が甘い、とのそしりは受けよう。捜査当局の聴取があれば包み隠さず事実を語り、疑惑の解明に協力してもらいたい。心理的負担は当然あろうが、それでもファンをうならせるプレーを見せてほしいと願う。

 問題の背景についても考えておきたい。スポーツにおける賭博の現状、そして水原氏自らが告白した「ギャンブル依存症」の問題である。

 米国では2018年の連邦最高裁判決からスポーツ賭博の合法化が加速し、首都ワシントンと38州で認可された。例外の一つがエンゼルスドジャースがあるカリフォルニア州であり、水原氏の行為はもとより違法である上に非合法の組織のわなに落ちた。

 一方で、多重債務や家庭崩壊などを生む依存症が全米で増加している。今回の騒動はそうした状況で起きた。

 日本はどうか。現状では、公認の賭け事は特別法のある公営ギャンブルのほか、スポーツ振興くじに限られる。大阪ではカジノが軸の統合型リゾート施設(IR)の整備工事が進むが、依存症対策が不十分とする批判は根強い。

 スポーツの結果や展開を予想する賭け事についても、経済産業省などに収益源として合法化を望む声がある。みんなで楽しむスポーツに巨額の金が賭けられ、結果として苦しむ人が出ることにはやはり違和感がある。スポーツビジネスのお手本とはいえ米国に何でもまねる必要はない。

 

【大谷選手元通訳】賭博の全容解明が不可欠(2024年3月28日『高知新聞』-「社説」)

  
 違法賭博疑惑の衝撃は大きい。野球に集中できる環境を取り戻すには全容の解明が不可欠だ。
 米大リーグ、ドジャース大谷翔平選手は、通訳を務めた水原一平氏の違法賭博問題に関し、自身の関与を否定した。
 スポーツ専門局ESPNなどの報道によると、水原氏は捜査対象の違法ブックメーカー(賭け屋)に借金があり、大谷選手の口座から少なくとも450万ドル(約6億8千万円)が送金された。水原氏はギャンブル依存症を告白したという。
 これに対し大谷選手は、賭博問題や巨額の借金は韓国での開幕戦後に初めて知ったとする。水原氏はESPNの取材に、大谷選手が借金の肩代わりに応じたと証言したが、その後に撤回している。また水原氏は大谷選手の代理人には「友人の借金」であり、大谷選手が肩代わりしたと説明していたが、大谷選手は「うそ」と繰り返した。
 水原氏は大谷選手がプロ野球日本ハムに入団した2013年から球団職員として勤務し、18年のエンゼルス移籍後は専属通訳となった。首脳陣との橋渡しや取材時の対応だけでなく、練習ではキャッチボールの相手にもなった。
 移動の際の運転手を務めるなど、行動を共にする様子がよく伝えられた。オールスター戦前日の本塁打競争で水原氏が捕手役を務めたこともある。大谷選手は、信頼していた人の過ちであり、ショックという言葉ではうまく言い表せない感覚で過ごしてきたと語った。
 2人の関係性を示すエピソードは多い。だが、それだけに厳しいまなざしを向けられかねない。
 米国ではオンラインのスポーツ賭博が急拡大し、州によっては税収増をもくろみ合法化へと動いている。ファン開拓や市場拡大にも不可欠との見方がある。一方で、違法賭博への関与や依存症、選手が八百長に巻き込まれる懸念も大きい。
 大谷選手は、声明を発表する形にとどめ、調査が進行中で話せることは限りがあるとして質疑応答には応じなかった。想像した以上に説明したとの見方もあるが、まだ疑問は残っている。
 指摘されるように、水原氏がなぜ大谷選手の口座に勝手にアクセスして送金できたのかは関心事だ。巨額の資金流出や、一緒にいながらギャンブル依存症に気づかなかったのかと首をひねる人もいる。
 実態解明は当局や税を所管する内国歳入庁の捜査に委ねられる。大谷選手は、当局の調べに全面的に協力すると述べている。プレーに集中できる環境を取り戻すには解明が欠かせない。そのための十分な対応が必要なのは言うまでもない。
 メジャー7年目となる今季は打者に専念するが、独自のプレースタイルとスポーツ史に残る巨額契約で注目されるのは当然だ。日本や地元からは好意的な見方をされても、応援するチームが異なれば厳しい反応が想定される。その面からも疑惑の早期の解決が求められる。