大谷選手が賭博関与否定に関する社説・コラム(2024年3月27日)

記者会見に臨むドジャースの大谷翔平選手(右)と通訳を務めていた水原一平氏=ソウル市内で16日、坂口裕彦撮影

記者会見に臨むドジャース大谷翔平選手(右)と通訳を務めていた水原一平氏=ソウル市内で16日、毎日新聞坂口裕彦撮影

ケンタッキーダービーで馬券を購入する客。ギャンブル依存症は本人や家族を苦しめ、しばしば日常生活や仕事に支障をきたすといわれる=2022年5月、AP
ケンタッキーダービーで馬券を購入する客。ギャンブル依存症は本人や家族を苦しめ、しばしば日常生活や仕事に支障をきたすといわれる=2022年5月、AP

大谷選手が賭博関与否定 全容を解明、再び輝いて(2024年3月27日『東奥日報』ー「時論」/『山形新聞』-「社説」/『山陰中央新報佐賀新聞』-「論説」)


 米大リーグ、ドジャース大谷翔平選手が、専属通訳だった水原一平氏の違法賭博問題に関して初めて報道陣に経緯を説明し、自らの賭けや胴元への送金など全ての関与を否定した。ただ、これで闇が解明されたわけではない。当局の捜査や大リーグ機構(MLB)の調査を注視したい。

 大リーグ開幕時に、不世出ともいわれる野球選手を問題が直撃した。通訳が引き起こした不祥事とはいえ、選手自身が関係していれば処分を受ける恐れもあった。今回の説明が事実だとすれば、同選手は犯罪の被害者であり、処分対象ではないことになる。ファンはひとまず安堵(あんど)したことだろう。

 米国の報道などによると、水原氏が違法なスポーツ賭博に手を染め、日本円に換算して7億円近くの負債をつくった。その支払いのため、巨額の金が大谷選手の口座から送金された。

 水原氏の二重三重のうそが事態を複雑にした。借金の肩代わりを大谷選手に要請し、同意を得て送金してもらった、などの当初の説明は全て虚偽だったという。大谷選手によると、弁護士を通じて水原氏の行為が「窃盗と詐欺」に当たるとして司法当局に捜査を委ねた。

 真実味は感じられた。ただし質疑応答のない一方的な説明だったこともあり、解明されないまま残った疑問点もある。

 水原氏は、大谷選手の口座に「勝手にアクセスして送金した」という。だが、なぜ第三者がセキュリティーチェックをクリアして送金できたかは不明だ。口座からの巨額資金流出を知らなかった、という点も納得しにくい。

 水原氏は大谷選手と日本ハム時代からの同僚で、大リーグのエンゼルス移籍時に同時に渡米し専属通訳を務めてきた。ドジャース移籍の際も行動を共にした。通訳以外にも送迎の運転手役、練習相手役なども行い、文字通り二人三脚でステップアップしてきた。親密な関係だっただけに、事件に大谷選手が「ショック以上」の衝撃を受けたことは理解できる。

 大谷選手は大リーグで最優秀選手(MVP)を2度受賞、本塁打王も獲得し、ドジャースに史上最高額とされる10年で総額7億ドル(約1千億円)の契約で移籍した。CM収入も年数十億円といわれ、ビジネス規模が大きい。

 スーパースターであるなら、リスク対応や会計管理にも細心の注意を払うべきだろう。信頼関係を基に通訳に頼るのではなく、テニスやゴルフのトップ選手のように個別の支援チームがあれば状況は違っていたかもしれない。事件発覚後に本人が沈黙を続けたことも、臆測が広がったことにつながった。ファンに支えられるプロ選手には、適切なタイミングで説明する責任があろう。

 投打の二刀流で見せた大活躍。巨額契約金で請われた名門チームへの移籍。元バスケットボール選手との結婚。大谷選手は渡米以来、日本に住む私たちに明るいニュースを次々と提供してきた。初めて直面したスキャンダルも乗り越えてほしい。

 疑問が完全に解明された後で、大谷選手にはこれまでと変わらぬ笑顔でファンを魅了するプレーを期待したい。共同通信・荻田則夫)


「賭博との関わりを隠そうとウソをつく…(2024年3月27日『毎日新聞「余録」)

 「賭博との関わりを隠そうとウソをつく」「重要な人間関係や仕事を危機にさらす」「絶望的な経済状況を逃れるために他人の資金を頼る」。米精神医学会がまとめたギャンブル依存症の判断基準の一部だ

▲米国では近年、若者の間で依存症が増えているという。きっかけの一つが6年前の米最高裁判決だ。スポーツ賭博をラスベガスのあるネバダ州だけに限定していた法律を違憲と判断し、多くの州で解禁された

▲野球にバスケット、アメリカンフットボール。カジノに行かずに24時間遊べるスマホ用アプリも普及した。親にウソをついて金を無心し、奨学金を使い込む大学生。「コカイン中毒のようだった」とは治療を受ける患者の言葉だ

▲同じ沼にはまったのだろう。米大リーグ、ドジャース大谷翔平選手の通訳だった水原一平氏である。大谷選手は「みんなにウソをついていた」と違法賭博に関与して解雇されたかつての相棒を責め、「悲しい」ともらした

▲依存症の基準にも見事に合致する。それにしても7億円近い借金を作ったというのは普通ではない。10年で1000億円を超える巨額契約を結んだスーパースターとの関係を賭け屋に利用されたのか

▲米メディアは大谷選手の口座から賭け屋に送金があったことに注目している。「勝手にアクセスされた」という説明が米当局や大リーグ機構の調査でも確認されることが一番だ。ファンが望むのは一刻も早くもやもやした気分を晴らして新天地での活躍に声援を送ることだろう。

 

うそだと言ってよ(2024年3月27日『高知新聞』-「小社会」)

  
 105年前の米大リーグ、ワールドシリーズで球界最悪と呼ばれる醜聞が起きた。「ブラックソックス事件」。賭博師に買収されて故意に敗退したとされ、ホワイトソックスの8選手が永久追放された。

 その一人に強打者シューレスジョー・ジャクソンがいる。ただ、彼はシリーズで好成績を残し、実際は八百長に加担していなかったとの説もある。裁判所を出てきた彼に少年ファンが「うそだと言ってよ、ジョー」と泣きついたという伝説が残る。

 こちらも聞いた当初、「うそだと言ってよ」と思った野球ファンは多かったのでは。ドジャース大谷翔平選手の通訳を務めていた水原一平氏が、違法賭博に関与した疑いが発覚。波紋が広がる。

 野球は未経験ながら、キャッチボールの相手を務める。試合前の練習で背負ったリュックから必要な道具を取り出す。打撃フォームを確認する動画も撮る。「二刀流」で多くの偉業を残す大谷選手には、欠かせない相棒という印象を持って見ていた。

 自らギャンブル依存症を告白したという。巨額の金が動くスポーツビジネスに群がる多様な誘惑も思う。大谷選手はきのう賭博、送金とも明確に関与を否定した。厳しさと懸念がある日米の世論にも理解が広がればいいが。

 コロナ禍に戦争とここ数年の暗い世相を、明るい話題で救ってくれたのはオオタニサンの躍動だった。もう「うそだと言ってよ」と嘆かなくていい展開を。

 

信義耐(2024年3月27日『佐賀新聞』-「有明抄」)

 スポーツや武道に必要なものの一つに「心技体」がある。これをもじり、社会人に必要なものを「信義耐」とする話を聞いた。信は信用、信頼、信じることの意。義は正義、耐は忍耐を意味するという

◆「紅こうじ」の成分を配合したサプリメント健康被害の恐れがあるとして、小林製薬が自主回収を進めている。このサプリはコレステロール値を下げる効果があるとされ、健康に気をつけている人に人気のようだ。ところが、摂取した人が腎疾患などを発症し、死亡例も報告された。原因究明はこれからのようだが、当分は使用しない方がいい

◆ただ、酒やみそなど、こうじは日本の食文化に欠かせない。紅こうじが今回の件だけで悪者扱いされるのはしのびない。原因を突き止めれば逆に、新たなプラス面の利用につながるかもしれない。今は耐える時だろう。誠実な対応で信頼を取り戻してほしい

◆一方、こちらは信頼回復の道が遠い。米大リーグ、大谷翔平選手の通訳だった水原一平さんである。大谷選手がきのう発表した声明を信じれば、水原さんは違法賭博への関与に加え、借金返済で同意を得ず、大谷選手の口座から送金した疑惑が深まった

◆「金の切れ目が縁の切れ目」といわれるが、本当に怖いのは「信」の切れ目と思う。信義耐。人生を象徴するようで、なかなか奥が深い。(義)