「賭博との関わりを隠そうとウソをつく」「重要な人間関係や仕事を危機にさらす」「絶望的な経済状況を逃れるために他人の資金を頼る」。米精神医学会がまとめたギャンブル依存症の判断基準の一部だ
▲米国では近年、若者の間で依存症が増えているという。きっかけの一つが6年前の米最高裁判決だ。スポーツ賭博をラスベガスのあるネバダ州だけに限定していた法律を違憲と判断し、多くの州で解禁された
▲野球にバスケット、アメリカンフットボール。カジノに行かずに24時間遊べるスマホ用アプリも普及した。親にウソをついて金を無心し、奨学金を使い込む大学生。「コカイン中毒のようだった」とは治療を受ける患者の言葉だ
▲同じ沼にはまったのだろう。米大リーグ、ドジャースの大谷翔平選手の通訳だった水原一平氏である。大谷選手は「みんなにウソをついていた」と違法賭博に関与して解雇されたかつての相棒を責め、「悲しい」ともらした
▲依存症の基準にも見事に合致する。それにしても7億円近い借金を作ったというのは普通ではない。10年で1000億円を超える巨額契約を結んだスーパースターとの関係を賭け屋に利用されたのか
▲米メディアは大谷選手の口座から賭け屋に送金があったことに注目している。「勝手にアクセスされた」という説明が米当局や大リーグ機構の調査でも確認されることが一番だ。ファンが望むのは一刻も早くもやもやした気分を晴らして新天地での活躍に声援を送ることだろう。
うそだと言ってよ(2024年3月27日『高知新聞』-「小社会」)
105年前の米大リーグ、ワールドシリーズで球界最悪と呼ばれる醜聞が起きた。「ブラックソックス事件」。賭博師に買収されて故意に敗退したとされ、ホワイトソックスの8選手が永久追放された。
その一人に強打者シューレス・ジョー・ジャクソンがいる。ただ、彼はシリーズで好成績を残し、実際は八百長に加担していなかったとの説もある。裁判所を出てきた彼に少年ファンが「うそだと言ってよ、ジョー」と泣きついたという伝説が残る。
こちらも聞いた当初、「うそだと言ってよ」と思った野球ファンは多かったのでは。ドジャース、大谷翔平選手の通訳を務めていた水原一平氏が、違法賭博に関与した疑いが発覚。波紋が広がる。
野球は未経験ながら、キャッチボールの相手を務める。試合前の練習で背負ったリュックから必要な道具を取り出す。打撃フォームを確認する動画も撮る。「二刀流」で多くの偉業を残す大谷選手には、欠かせない相棒という印象を持って見ていた。
自らギャンブル依存症を告白したという。巨額の金が動くスポーツビジネスに群がる多様な誘惑も思う。大谷選手はきのう賭博、送金とも明確に関与を否定した。厳しさと懸念がある日米の世論にも理解が広がればいいが。
コロナ禍に戦争とここ数年の暗い世相を、明るい話題で救ってくれたのはオオタニサンの躍動だった。もう「うそだと言ってよ」と嘆かなくていい展開を。
スポーツや武道に必要なものの一つに「心技体」がある。これをもじり、社会人に必要なものを「信義耐」とする話を聞いた。信は信用、信頼、信じることの意。義は正義、耐は忍耐を意味するという
◆「紅こうじ」の成分を配合したサプリメントに健康被害の恐れがあるとして、小林製薬が自主回収を進めている。このサプリはコレステロール値を下げる効果があるとされ、健康に気をつけている人に人気のようだ。ところが、摂取した人が腎疾患などを発症し、死亡例も報告された。原因究明はこれからのようだが、当分は使用しない方がいい
◆ただ、酒やみそなど、こうじは日本の食文化に欠かせない。紅こうじが今回の件だけで悪者扱いされるのはしのびない。原因を突き止めれば逆に、新たなプラス面の利用につながるかもしれない。今は耐える時だろう。誠実な対応で信頼を取り戻してほしい
◆一方、こちらは信頼回復の道が遠い。米大リーグ、大谷翔平選手の通訳だった水原一平さんである。大谷選手がきのう発表した声明を信じれば、水原さんは違法賭博への関与に加え、借金返済で同意を得ず、大谷選手の口座から送金した疑惑が深まった
◆「金の切れ目が縁の切れ目」といわれるが、本当に怖いのは「信」の切れ目と思う。信義耐。人生を象徴するようで、なかなか奥が深い。(義)