「紅麹」サプリに関する社説・コラム(2024年4月2日)

(2024年4月2日『東奥日報』-「天地人」)

 

 ストレスを緩和するバナナもあれば、脂肪や糖の吸収を抑えるチョコレートもある。食品売り場を少し見回せば、健康維持や増進をうたった機能性表示食品をいくつも見つけることができる。酒売り場では、カロリーも糖質もゼロの上、記憶力向上が期待できる機能性を表示したノンアルコールビールも並ぶ。

 食べ過ぎ、飲み過ぎには黄信号がともりっぱなし。生活習慣病予備軍の身に「機能性」は光って見える。「試してみよう」と手に取ってみることもある。

 まさにこうした消費者をターゲットにしているのだろう。機能性表示食品の市場規模は健康志向を背景に年々拡大し、2018年からの5年間で3倍超の6865億円に膨らんだ。15年に始まった制度は、事業者が安全性や科学的な根拠を国に届ければ、事業者の責任で機能性を表示できる。

 健康被害が報告された小林製薬の「紅こうじ」を使ったサプリメントも機能性表示食品だ。被害の原因は特定されていない。市場拡大の一方、安全性の担保に不備はなかったか。被害の把握から使用停止の呼びかけまで2カ月余りかかった責任も問われる。一刻も早い全容解明が待たれる。

 「これは大丈夫か…」。このところ、売り場で手にした食品の成分表示を眺めながら立ち止まる時間が増えてきた。ただでさえ物価高。なるべくストレスのない買い物でありたい。

 

「紅麹」サプリ 重要な情報の開示が遅すぎる(2024年4月2日『読売新聞』-「社説」)

 

 健康被害が広がり、死者まで出ているのに、重要な情報が速やかに公表されない状況は見過ごせない。被害をこれ以上拡大させないためにも、情報開示を徹底すべきだ。

 小林製薬が、健康被害の出ている 紅麹べにこうじ サプリメントを分析したところ、青カビから発生する物質「プベルル酸」が検出された。

 プベルル酸は毒性が強いとされるが、健康被害が相次いでいる腎臓への影響はわかっていない。関係機関は総力を挙げ、原因の究明を進める必要がある。

 小林製薬は、プベルル酸の検出を3月28日に厚生労働省に報告した。しかし、翌29日の記者会見では当初、「未知の成分」としか明らかにしなかった。

 会見の最中、別途、厚労省が成分名を公表したため、慌てて事実を認める事態となった。小林章浩社長は「自社で判断がつかなかった」と釈明した。命にかかわる問題への対応として、危機意識が欠けていると言わざるを得ない。

 小林製薬は、初動の段階から対応の遅れが目立っている。問題を1月半ばに把握しながら、公表や厚労省など関係省庁への報告は2か月以上も後だった。

 「原因究明に時間がかかった」と説明しているが、こうした考え方がまかり通れば、原因が最終的に特定されるまで何も発表しなくてよいことになる。消費者の安全を第一に考えるなら、そのような対応にはならないはずだ。

 腎臓病の患者3人を診察した日大板橋病院の医師はサプリが原因ではないかと疑い、2月1日、小林製薬に連絡した。しかし、担当者が事情を聞きに来たのは、3週間が過ぎてからだったという。

 問題のサプリは機能性表示食品で、消費者庁に届け出れば、国の審査なしに健康効果を示して販売できる。ただし、消費者庁が策定した指針では、健康被害の情報があれば、確証が不十分でも速やかに報告するよう求めている。

 健康食品である以上、被害の情報があった時点で関係省庁に連絡し、販売を中止するのが筋だ。

 健康被害は台湾でも報告され、影響は海外にも及んでいる。

 厚労省大阪市は、製造した工場を立ち入り検査した。プベルル酸が検出されたのは、昨年4~10月に大阪工場で製造された紅麹原料からだという。

 大阪工場は12月に閉鎖されているが、設備などに青カビの発生原因がないかどうか、外部から入り込む恐れはなかったかなど、多角的に調べることが重要だ。