日産の下請法違反に関する社説・コラム(2024年3月19日)

日産の下請法違反 悪弊断ち、大手の責任果たせ(2024年3月19日『河北新報』-「社説」)

 

 大手メーカーが下請け業者の弱い立場につけこみ、支払いの減額を強要する。悪質な「下請けいじめ」が数十年前から常態化していたというから、許しがたい行為だ。

 中小零細企業が原材料費の高騰などを取引価格に転嫁するどころか、逆に利益を吸い取られていては到底、満足な賃上げなどできまい。

 今春闘は労組要求への満額回答など大手で高水準の賃上げが相次ぐ。日本経済が低迷から脱し、好循環を実現するには、物価高を上回る賃上げを中小企業にも波及させることが不可欠だ。全ての業種であらゆる下請けいじめ、悪弊を根絶しなければならない。

 日産自動車が、下請け業者への支払代金を不当に減額したのは下請法違反(代金減額の禁止)だと、公正取引委員会から再発防止の勧告を受けた。約2年間に部品メーカーなど36社を対象に、一度決まった支払代金から計30億円超を減額したという。下請法施行以来、最高の認定額だ。

 下請法は、下請け側に責任がある場合などを除き、当事者間の合意があっても発注金額からの減額を禁じている。

 減額幅は日産と下請け間で協議して決め、覚書も交わしていた。日産側は違法性の認識を欠いたまま「割戻金」名目で請求し、下請け側も拒否の姿勢を示さず、交渉のテーブルに着くのが慣例になっていたとみられる。

 公取委は、日産と同様の減額強要など下請けいじめが相次いでいるとして自動車業界全体の体質を問題視する。

 業界はトヨタ自動車や日産など大手メーカーを頂点に、車体の製造を手がける1次下請け、車体のパーツを担当する2次下請け、ねじやばねを製造する3次下請けというように、巨大なピラミッドに例えられる。下請けは安定した取引を期待できる半面、弱い立場に置かれる。結果的に違法行為が発覚しにくいという悪循環に陥りがちだ。

 公取委は近年、中小が賃上げを実現できるよう発注元への調査・監視を強化している。2022年度の指導や勧告は過去最多の8671件に上った。今月15日には、下請け業者と協議しないで取引価格を据え置くなど、独占禁止法が禁じる「優越的地位の乱用」につながる恐れがあるとして10社を公表した。ダイハツ工業三菱ふそうトラック・バスなども含まれている。

 強者が弱者を踏み台にして業績を上げ、格差が拡大する。ゆがんだ社会の構図そのものではないか。

 自動車業界はトヨタグループで不正が相次ぎ発覚するなど不祥事が続く。価格競争力を追うだけではなく、巨大ピラミッドの頂点として、サプライチェーン(供給網)全体の持続的な発展を図る責任を負ってこそ、トップ企業ではないか。春闘のみならず、下請けに対しても気概を示す時である。それは自動車業界にとどまらないはずだ。

 

日産の減額強要(2024年3月19日『しんぶん赤旗』-「主張」)


下請けいじめの構造にメスを
 日産自動車が、多数の下請け企業に支払代金の減額を強要する下請けいじめを長年続けてきたことが発覚しました。下請け側に何の責任もないのに、コスト削減を目的に一方的に支払代金を減額していたとして、公正取引委員会から下請法違反で勧告を受けました。

 円安で日産など輸出大企業は巨額な利益をあげています。一方、下請け企業は原材料費や人件費の上昇分を取引価格に転嫁できずに苦しんでいます。発注者の強い立場を利用した下請けいじめは許されません。日本経済全体の成長も阻害します。

氷山の一角にすぎない
 減額した総額は、2021年1月から23年4月までの間で約30億2400万円にのぼります。下請法違反としては過去最大です。日産は、これをすでに返金したといいますが、それで済まされる問題ではありません。

 減額は数十年にわたり続けられた可能性があります。下請け企業側は、取引関係が打ち切られることを恐れて減額を受け入れさせられてきたのでしょう。

 自動車製造業は、タイヤホイールやエンジンなど膨大な数の部品が必要で、日産のような自動車メーカーを頂点に1次下請け、2次下請け、3次下請けと、ピラミッドのような階層をともなった下請け企業群が積み重なっています。

 21年3月にはマツダが、下請け企業に手数料名目で総計約5100万円を支払わせていたとして、下請法違反で、勧告を受けるなど、類似の事例が発生しています。

 重層的下請け構造のもと、下請けいじめの単価たたきが横行し、不当な取引の見直しを求めることや告発自体、大変困難です。

 それでも、下請法に関する公正取引委員会への相談件数は22年度に約1万4000件にのぼり増加し続けています。それに対し、同委員会による勧告は年1桁台にとどまり氷山の一角にすぎません。抜本的な改善が求められます。

 立ち入り検査などの強い権限がある専任の下請け検査官は、公正取引委員会で122人、中小企業庁で57人にとどまっています。専任の下請け検査官の大幅増員は急務です。同時に、不公正取引への罰金額の抜本的な引き上げ、被害額の3倍の被害救済の違反金制度を創設するなど、単価たたきが「割に合わない」ようにすることが必要です。

 下請振興法は、振興基準で、単価は、下請け中小企業の「適正な利益」を含み、労働条件の改善が可能となるよう、親企業と下請け企業が「協議」して決定しなければならないと定めています。

中小企業が潤ってこそ
 しかし、中小企業庁の調査によると下請け企業のコスト上昇分の取引価格への転嫁率は45・7%で半分以上が転嫁できていません。

 同庁の自動車産業の下請けへのヒアリングでは、「価格交渉を申し出たところ、コスト上昇の根拠資料を求められたため提出したが、回答期限までに回答はなく、その後音沙汰なしとなっている」などの声があがっています。

 コストカット型経済を改め、雇用の7割を占める中小企業が正当な利益を受け、そこで働く人が潤ってこそ、経済の好循環につながります。下請振興法に実効性をもたせることに政治の責任で取り組まなければなりません。