札幌市敬老パス 正面からの議論が必要(2024年4月1日『北海道新聞』-「社説」)

 札幌市が発行する敬老優待乗車証(敬老パス)の見直しを巡る議論が迷走している。
 市は現行制度を2024年度限りで廃止した上で、歩くことなど健康寿命を延ばす活動にポイントを与える「敬老健康パス」に変更し、利用上限額を年7万円から2万円に引き下げる方針だ。
 市議会で疑問の声が上がり、市は急きょ、希望者には現行パス利用を3~5年程度認める経過措置を導入すると表明した。期間中の上限額は一定程度下げる方向だが、詳細は定まっていない。
 高齢化が進み敬老パス事業は対象者が増えている。制度の持続性に懸念があるなら、市民に財政状況を説明し、サービスと負担のバランスを考えてもらうのが筋だ。
 それを素通りして、財政問題を健康施策にすり替えるように制度を変えるのは不信を招くだけだ。
 検討を仕切り直すべきである。
 立案の進め方にも疑問がある。昨年度開いた有識者の検討委員会や市民とのワークショップはいずれも健康寿命に主眼を置いたもので、敬老パス見直しを正面から議論していない。
 本質的な説明を欠いたまま作成した案に対し、批判を受けるとその場しのぎのような手直しで落としどころを探る。これでは良い制度を作ることはできないだろう。
 制度見直しは高齢者の暮らしの根幹に関わる。第三者的な立場での公平公正な議論が欠かせない。
 札幌市には法に基づき、社会福祉に関する事項を調査・審議する社会福祉審議会がある。会には高齢者福祉が専門の分科会もある。敬老パスのあり方を諮問し、幅広い論議を喚起すべきではないか。
 重要となるのは透明性だ。
 高齢者人口の推計とそれに基づく福祉施策の予算見通しをはじめ、敬老パス存続の場合と新制度とした場合の事業費比較など、議論の基礎となる資料を広く市民に公表し説明すべきだ。
 市民が自らの税金の使い道を考えるのは地方自治の根本である。
 先の定例市議会は新制度の関連事業費を盛り込んだ24年度予算案を可決した。与党会派は新制度に注文を付けたり、拙速さを指摘したりしながらも賛成に回った。
 与党であっても、予算案に疑義があれば、組み替えを要求するか反対するのが本来の姿だろう。
 秋元克広市長は記者会見で「議論を受け止めて制度設計する」と述べたが、経過措置中に任期が終わる可能性もある。真正面から市民に向き合う姿勢が求められる。