「政治とカネ」のせいなのに 少子化対策も「国民負担」も、議論が深まらないまま予算案採決するなんて(2024年3月2日『東京新聞』)

 2024年度一般会計当初予算案の採決をめぐり、衆院で1日、与野党の攻防が激化した。総額112兆5717億円の予算案は過去2番目の規模で、社会保障費や防衛費は過去最大だが、衆院予算委員会の審議は「政治とカネ」にほぼ集中。自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件の実態解明や抜本的な政治改革に後ろ向きな岸田文雄首相の姿勢が議論の停滞に拍車をかけ、少子化対策や防衛費増の是非など重要な政策課題の存在がかすんでいる。(近藤統義、山田晃史)

◆結局「月500円」の負担は増えるのでは?

 当初予算案は2月5日に実質審議入り。約38兆円の社会保障費には増額した少子化対策の多くが盛り込まれ、約8兆円の防衛費には国産長射程ミサイルの開発・取得費や、イージス・システム搭載艦の建造費などが入った。6月から実施される定額減税による地方減収分を補う交付金9000億円も含まれる。厳しい財政状況の中、国民負担がどこまで増えるのか、27年度までの5年間で43兆円という防衛費の是非や財源の議論は深まらなかった。
集中審議が行われた衆院予算委=1日、国会で

集中審議が行われた衆院予算委=1日、国会で

 象徴的なのが、少子化対策に充てるために公的医療保険料に上乗せして徴収する支援金制度だ。
 28年度時点で「1人当たり月500円弱」になるとの試算を示した首相だが、賃上げと歳出改革で「実質的な負担は生じない」と主張。野党に加え、身内の自民党からも14日の予算委で「正直分かりにくい」(上野賢一郎氏)と苦言を呈されたが、同じ説明を繰り返すばかりだった。

◆防衛増税しながら定額減税って…どういう意味?

 開始を先送りしている防衛増税についても同様だ。同日の予算委で立憲民主党階猛氏が、定額減税との整合性に触れ、増税の必要性をただしたのに対し、首相は「国民に負担をお願いしなければならない」と従来通りの答弁に終始した。
小野寺五典予算委員長の解任決議案の採決が行われた衆院本会議=1日、国会で

小野寺五典予算委員長の解任決議案の採決が行われた衆院本会議=1日、国会で

 官邸内からは「政治とカネばかりで、他の大事な議論が進まない」との恨み節も聞こえるが、首相はその「大事な議論」でも、正面から答える姿勢が見られなかった。
 「政治とカネの問題は長引かせたくない。早急に全容解明し、予算審議に挑むのが与野党一致した意見だ」。立民の山井和則氏は今国会の冒頭から、首相にこう迫っていた。だが首相は裏金事件の実態解明を遅々として進めず、政治改革の具体案も示さないまま。「国民の信頼回復を果たした上で重要政策を実行していく」とする首相の言葉は空手形に終わりかねない。