子育て法案 出生数反転へ具体策論じ合え(2024年4月7日『読売新聞』-「社説」)

 人口減の深刻さについて与野党が危機感を共有し、有効な対策を論じ合うことが大切だ。政府は国民に負担が生じないかのような説明を改め、 真摯しんし に理解を求めるべきだ。

 子ども・子育て支援法などの改正案が衆院で審議入りした。岸田首相は「少子化は危機的状況にある。2030年代に入るまでが少子化傾向を反転できるかどうかのラストチャンスだ」と述べた。

 このまま少子化が進めば、日本の総人口は70年には現在の7割まで減少し、また、総人口の4割近くが高齢者となる見通しだ。

 人口減は、国力をそぐだけでなく、介護などの担い手不足に拍車をかける。厳しい現実から目を背けず、国を挙げて対策を進めていく必要がある。

 改正案は、児童手当の所得制限撤廃などの現金給付策が柱だ。対策の財源を確保するため、医療保険料に上乗せする形で、個人や企業から「支援金」を徴収する制度を創設することも盛り込んだ。

 消費税など増税に対する理解を得にくいなか、全国民が加入する社会保険を利用することで、高齢者を含めた幅広い世代から拠出を求める狙いがある。

 政府の試算では、被保険者1人あたりの平均的な負担額は、大企業の健康保険組合で月850円、中小企業の協会けんぽでは月700円になる。実際の負担額は所得によって変わり、高所得の人は月1000円を超えるという。

 政府は当初、負担額は加入者1人あたり月500円程度と説明していた。粗い試算に基づく説明だったとはいえ、負担額が膨らむことへの反発も出るだろう。

 問題は、首相が支援金について「実質的な追加負担は生じない」と説明していることだ。

 社会保障の歳出改革や賃上げが進めば、支援金で負担が増えても相殺される、という意味のようだ。だが、社会保障の歳出をどう減らすのかは決まっていない。賃上げの恩恵がすべての労働者に行き渡るとも限らない。

 首相の説明に対し、野党は「 詭弁きべん であり、ごまかしだ」と批判し、実質的に負担増になると強調している。政権を攻撃する格好の材料と見ているのだろう。

 国民負担ばかりに焦点が当たり、肝心の少子化対策の検討がなおざりになるようでは困る。

 出生数を反転させるには、これから結婚、出産する世代にとって、効果的な施策を打ち出すことが重要だ。各党が知恵を絞って議論しなければならない。