死刑制度懇話会 廃止ありきの議論やめよ(2024年3月31日『産経新聞』-「主張)

京都アニメーション放火殺人事件で、青葉真司被告の判決公判が開かれた京都地裁の法廷(代表撮影)

 

 死刑廃止を求める日本弁護士連合会の呼びかけで、民間の識者らによる「日本の死刑制度について考える懇話会」が発足した。

 委員には平沢勝栄衆院議員や林真琴前検事総長、金高雅仁元警察庁長官らが名を連ね、日弁連が事務局を務める。今秋にも提言をまとめて政府に働きかける方針だ。

 懇話会は設立趣意書で「死刑制度の廃止は国際的潮流で、先進国で国として統一して執行を続けているのは日本だけ」としている。議論を廃止に導こうとしている疑いが強い。

 座長に就任した井田良・中央大大学院教授は、昨年11月の日弁連のシンポジウムで「死刑制度には致命的ともいえる問題点がいくつもある」「応報的な刑罰論から脱却すべきだ」と発言している。

 日本は死刑制度を有する法治国家である。裁判員裁判でも厳刑相当の事件には死刑判決が出されており、制度は社会に定着している。なぜ、今提言を出す必要があるのか。

 死刑のない英国やフランスなどでは、容疑者を警察官が事件現場で射殺する「即決の処刑」と呼ばれる事態が頻発する。加害者の裁判を受ける権利を奪う措置であり、真相の究明もなされない。

 刑罰は、国民の道徳観、死生観、宗教観と深く結びついている。外国にならえばよいというものではない。

 内閣府が、全国の18歳以上の男女を対象に令和元年に行った世論調査では、死刑制度の存続を支持する人は80・8%で、「廃止すべきだ」と回答した人は9%だった。制度存続を支持する人が、廃止すべきだとする人を大きく上回る傾向は、昭和31年の調査(当時は総理府)から変わらない。

 廃止派は、「死刑は『国家による殺人』で残虐だ」と非難するが、死刑判断を導く要因となった凄惨(せいさん)な犯罪は残虐ではないのか。京都アニメーションの放火殺人事件では、36人が命を奪われた。厳刑をもってしか償うことができない重い罪が、この世には存在する。

 死刑制度の維持は、非道な犯罪を国、社会、国民は許さないという決意といえる。被害者や遺族の強い処罰感情に応えることは司法の役割でもある。重視されるべきは、海外の潮流でなくこうした価値観である。

 

日本の死刑制度について考える懇話会 設立趣意

 

 2024年(令和6年)2月29日

 我が国の死刑制度は、1882年(明治15年)制定の旧刑法によって、執行方法を絞首刑と定められたものが、現行の刑法にも引き継がれ、今も100名以上の死刑囚がいます。
 死刑は人間の尊い生命を奪う不可逆的な刑罰であるため、「国家が人の生命を奪う」という国家機能の根源に関わる問題を内包しています。
 死刑制度の廃止は国際的な潮流です。世界の7割を超える国が、すでに法律上又は事実上、死刑を廃止しています(196か国中、法律上又は事実上の廃止国は144か国)。とりわけ、先進国グループであるOECD経済協力開発機構)加盟38か国のうち、死刑制度を存置しているのは、米国、韓国、日本の3か国です。しかも、死刑存置国に数えられる米国でも、すでに23州とワシントンD.C.で死刑が廃止されています。また、韓国ではすでに1998年以降20年以上にわたって執行を停止しています。したがって、OECD加盟国の中で、いまだに国家として統一して死刑執行を続けているのは日本だけです。
 このため、国際司法共助の上でも、日本で殺人を犯した者が外国に逃亡した場合に、日本政府が逃亡先の死刑廃止国に犯罪人の引き渡しを求めても、日本に死刑が存在していることを理由として引き渡しを拒まれるという指摘もあります。
 日本弁護士連合会は、2016年(平成28年)10月7日に「死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」を行い、死刑廃止の立場を明確にし、2022年(令和4年)11月には「死刑制度の廃止に伴う代替刑の制度設計に関する提言」により、死刑制度の廃止とともに、その代替刑として終身拘禁刑(ただし、例外的に減刑制度あり)を設けること等を提案しています。また、全国の弁護士会でも死刑廃止決議が相次いでなされています。
 2018年(平成30年)12月5日には、死刑制度の是非を議論する超党派議員連盟として「日本の死刑制度の今後を考える議員の会」が設立され、将来的な死刑制度の在り方に関する提言とりまとめを目指すとされています。社会の各層の著名人が死刑制度について意見を表明することも増えました。
 ところが、政府の世論調査の結果、国民の8割が死刑制度も「やむを得ない」としていることなどから、死刑制度についての検討は進んでいないのが現状です。
 そこで、私たちは、国民各界及び各層の参加を得て、十分な情報をもとに活発な議論を行い、日本の死刑制度のあるべき方向性について提言するため、ここに「日本の死刑制度について考える懇話会」を設立します。

 

1947年の段階で全⾯的な死刑廃⽌国は8ヵ国
1977年16ヵ国
1988年35ヵ国
2001年76ヵ国
2011年96ヵ国
2022年112ヵ国
(事実上の廃⽌国等を含めると144ヵ国)