3月21日は国際人種差別撤廃デー。日本でも芸能界の性加害問題や入管施設の劣悪な人権状況などを契機に、被害救済や政策提言を担う国内人権機関の設置を求める声が顕在化しているとして設置の必要性を考える集会が同日、国会内で開かれた。韓国国家人権委員会の国際人権部副部長の白佳倫(ベクガユン)さんを招き、日本に先行する韓国の国内人権機関の取り組みと課題を学んだ。(曽田晋太郎)
◆韓国は23年前に設置、17万件あまりを受理
集会は、人権問題に取り組む団体や弁護士らでつくる「人種差別撤廃NGOネットワーク」(東京)が主催した。白さんによると、韓国で国家人権委が発足したのは、軍事独裁政権が終わり、金大中氏が大統領選に当選後の2001年。開設初日から122件の申し立てがあり、障害に基づく差別や宗教的理由による兵役拒否、移住労働者への差別などが寄せられた。
韓国の国家人権委は大統領と国会、最高裁に当たる大法院長が任命する計11人の委員で構成。国内には六つの地域事務所があり、死刑廃止や国家保安法廃止といった人権に関する法律や政策への勧告や意見を発出するほか、政府や民間による人権侵害、差別に関する申し立てを受け、事案を調査し、主に加害の側に勧告を出す。これまで累計17万件余の申し立てを受理してきた。
◆官民に「勧告を尊重する土壌」 受け入れは9割
勧告に強制力はないが、受け入れる割合は約9割。白さんは「政府も民間も勧告を尊重する土壌ができているので、拒否するよりも受け入れる割合が高い」と説明した。
一方で、組織の独立性には課題がある。係争中の裁判事案は調査できず、10年には政府が予算や人員を削減した経緯もある。ほとんどの委員が法曹出身者で占められ、多様性も不十分だ。白さんは「調査を担える人材は全体のスタッフ250人のうち90人しかおらず人手不足も深刻。人権委の設置は第一歩だが、続けていくために日々闘っている」と打ち明ける。
◆国連加盟120カ国が設置、日本や中国はまだ
これに対し、日本の状況はどうか。世界をみると、国連加盟193カ国中、120カ国に国内人権機関があるという。「アジアの国でも半数は機関ができているのに、日本と中国は未設置だ。人権に対する問題性がますます突きつけられている」と外国人人権法連絡会事務局長の師岡康子弁護士は現状を憂えた。
日本でも設置の機運が高まった時期はあるという。登壇した日弁連「政府から独立した人権機関実現委員会」の委員長の弁護士、小池振一郎さんによると、民主党政権末期の12年、国会に人権委設置法案が提出された。その後政権交代を経て第2次安倍政権が発足すると、衆院解散で廃案になった。
◆根強い自民保守派の反対、経済界には変化も
当時は法務省も設置に前向きだったが、自民党の保守派を中心に設置への反対論も根強くなかなか実現しない状況という。累次にわたり日本は国連機関から設置を勧告されていて、小池さんは「人権機関設置は世界の潮流だ」と強調する。
ただ、昨今はリスクマネジメントの観点から企業に国際人権基準が求められ、経済界で変化の動きもあるという。21年には経団連が「人権を尊重する経営のためのハンドブック」を、22年には経済産業省が企業による人権尊重のガイドラインをそれぞれ公表した。
◆救済が困難な人権侵害が相次ぎ発生
名古屋入管に収容中のスリランカ人女性が死亡した事案や、旧ジャニーズ事務所の創業者による性加害問題、宝塚歌劇団の女性俳優の急死など、今の制度の中では救済が困難な人権侵害は相次いでいる。前出の白さんは「人々にとって人権保護の層が厚くなることや、あらゆる領域で人権を主流化するために国内人権機関は必要だ。日本でも早く設置され、韓国との連携を期待している」と述べた。
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