従業員たちの「できない」をヒントにした「型破り」経営とは? 理容室6店展開、国立市・ペピーズ(2024年3月30日『東京新聞』)

 
<東京・首都圏 光る中小企業~しんきん優良企業>
 東京を中心に首都圏にはキラリと光る技術やサービス、優れた経営力のある中小企業がたくさんあります。2023年度しんきん優良企業(東京都信用金庫協会など主催)に選ばれた主な企業を随時紹介します。

◆保育園開園時間だけ営業 お迎えに間に合います

 理容室の前に赤、青、白のしま模様が回転するサインポールはない。代わりに出迎えるのは、大きな字で「男」と書かれた看板だ。型にはまらない男性専用ヘアサロン6店を多摩地区で展開する「ペピーズ」(東京都国立市)は、従業員の「できない」を解消する店づくりで成長を続ける。
従業員(右)と予約表を確認するペピーズ社長の池野孝太郎さん=東京都国立市のペピーズポノで

従業員(右)と予約表を確認するペピーズ社長の池野孝太郎さん=東京都国立市ペピーズポノで

 同市内の店舗「ペピーズポノ」。女性従業員が社長の池野孝太郎さん(46)と子どもの話をしながら予約表を確認していた。従業員は全員子育て中で、営業は保育園の開いている時間のみ。グループの経理を任せることで採算が合うようにした。それでも3カ月先まで予約が埋まっている。

◆「環境を変えればいい」 1人に90分かける高級店も

 型にはまらない店づくりの背景には池野さんの壮絶な人生経験がある。子どものころはいじめられっ子。理容室経営の父親ががんを患い、高校を退学した。他店での修行を経て実家の店に戻るも、売り上げはどん底。最初の仕事は従業員への退職勧奨だった。
 29歳の時に初めて人を雇ったが、従業員は「(池野さんは)新しいことをやりすぎ」と2年弱で退職。「できない人を『何で』と責めるのではなく、環境を変えればいい」と気付いた。
 店舗拡大の中で、従業員の育成を目的にした店も開いた。通常1人あたり60分かかる理髪の時間を、従業員がじっくりと客に向き合えるよう90分に設定した。育った従業員から「60分でもできるけど90分じっくりとやりたい」という希望が出たため、立ち上げたのが高級路線の店舗「メンズオンリーサロン創(そう)」。さらに、「保育園のお迎えなどで気をつかわずに済む職場を作るため」と、ポノも開設した。
 業務委託や歩合制など従業員との「ドライな関係」が広がる理美容業界で、「思いっきりウエットにしていく」と池野さん。従業員が独立する際には自ら保証人を引き受けるなど支援に積極的で、「繁盛しているみんなの店に遊びに行きたい」と笑った。(山田晃史)

企業データ ▽従業員数=30人▽売上高=2億円▽創業=1949年▽所在地=東京都国立市西2の21の28▽池野孝太郎社長のひと言=明るいところに人は集まる。


 (連載は今回が最終回です)