紙のように折れるしなやかな「金網」 荒川区「石川金網」の開発力は環境技術から芸術分野にまで(2024年3月26日『東京新聞』)

 
<東京・首都圏 光る中小企業~しんきん優良企業>
 東京を中心に首都圏にはキラリと光る技術やサービス、優れた経営力のある中小企業がたくさんあります。2023年度しんきん優良企業(東京都信用金庫協会など主催)に選ばれた主な企業を随時紹介します。
金網技術を応用した「おりあみ」(中央)などの開発経緯について語る石川幸男さん=東京都荒川区の石川金網で

金網技術を応用した「おりあみ」(中央)などの開発経緯について語る石川幸男さん=東京都荒川区の石川金網で

 東京都荒川区の創業101年の老舗メーカー「石川金網」は、金網の可能性に挑戦し続けている。使用済みペットボトルの100%リサイクルを可能にする不純物除去のメッシュ金網や、布のようにしなやかな世界初の金網折り紙「おりあみ」など、産業から芸術分野に及ぶ独自の技術開発力が、高く評価されている。

◆ペットボトル「100%リサイクル」を可能に

 1922年、金網の製造販売業者として創業。自動車や機械、建設など幅広い企業の依頼を受け、試作品作りから量産まで手がける。2004年に3代目社長に就任した石川幸男さん(64)が強調するのは「顧客の役に立ち、喜んでもらえる新商品の開発」だ。
 主力の金網は、使用済みペットボトルを新しいペットボトルに再生するリサイクル過程で使われる。織り方や編み目の異なる金網を何枚も重ねる実験を繰り返し、不純物を取り除く高性能かつ高機能メッシュ金網の実用化技術を開発した。「これまで環境先進国のドイツ製金網を使っていた企業の多くに、自社製品に替えていただいた」と胸を張る。

リーマン・ショックの苦境をバネに

金網技術を応用した「おりあみ」(中央)などの開発経緯を話す石川幸男社長

金網技術を応用した「おりあみ」(中央)などの開発経緯を話す石川幸男社長

 おりあみ誕生のきっかけは、08年のリーマン・ショックだった。当時主力だった自動車用のフィルターは、取引先の多くが海外に拠点を移した影響で売り上げが激減し、「多角化の必要に迫られ自社製品の開発を模索していた」と振り返る。余った金網で折り鶴を作ったところ評判になり、折り紙作家の協力を得て数十種類の試作品の中から完成させた。透き通った素材で耐久性があるため、ピアスなどアクセサリーとしても評判で、フランスにも輸出する。
 おりあみの評判は、若手や大学教授を迎え入れることにつながり、社内に活気を呼び起こした。だが足元は物価高が続き、取引先との価格交渉は簡単ではない。「自社製品が勝ち残るためにも、独自の開発力が欠かせない。事務職や営業職など社内の垣根を取り払い、全社員で顧客が喜ぶ商品開発をしたい」と新たな挑戦を誓った。(市川千晴)

 企業データ ▽従業員数=31人▽売上高=約6億5000万円▽創業=1922年▽所在地=東京都荒川区荒川5の2の6▽石川幸男社長のひと言=美術館や博物館に出かけじっくり観察しながら、商品の構想を練ることを心掛けている。